彼は相対性理論(そうたいせいりろん)に取り組んだ。
当時、ニュートン力学では説明がつかない事象(じしょう)が多く発見され、理論の再構築(さいこうちく)が必要だとされた。
さまざまな理論物理学者が、相対性理論に取り組んだ。突然、アルベルト=アインシュタインAlbert Einsteinが登場して、相対性理論を成(な)し遂(と)げたわけではなかった。
さまざまな論文が提出され、観測結果(かんそくけっか)などから、さまざまな理論がどんどん脱落(だつらく)していった。
そして、最後に残った2つの理論は、アインシュタインのものとホワイトヘッドのものだった。
このふたりの理論は、ほぼ同じであった。
たったひとつ違っていたのは、アインシュタインは、重力で光は曲がるとし、ホワイトヘッドは重力で光が曲がることはないという点だけだった。
日蝕(にっしょく)を観測したところ、太陽の向こう側にあるはずの恒星(こうせい)が観測できた。重力で光が曲がらなければ、見えるはずのない恒星が見えたのである。つまり、重力で光が曲がるということが判明したのである。
そして、相対性理論の栄誉(えいよ)はアインシュタインのものとなった。
ホワイトヘッドの第1の蹉跌(さてつ=つまずき)である。
その後、ホワイトヘッドは、バートランド=ラッセルBertrand Russellとの共著で、『プリンキピア=マテマティカ』Principia Mathematica(ラテン語で「数学原理」という意味)を刊行した。
この著書は、最後まで読んだ者が世界で4人しかいないとされる。たいていの論理学者は、前のほうだけしか読んでいない(私もそうです)。
それはともかく、クルト=ゲーデルKurt Gödelが「不完全定理」Gödelsche Unvollständigkeitssatzを提出した。
その結果、『プリンキピア=マテマティカ』の内容は、無矛盾(むむじゅん)でかつ完全であるということは、どうしても証明できないということになった。
また、ごく大雑把(おおざっぱ)にいえば、数学の基礎論における論理主義の矛盾を論理主義で解決しようとするというか、あるいは、集合論の矛盾を集合論で解決しようとするというか、そういうようなところがあった。
第2の蹉跌(さてつ=つまずき)である。
その後、ホワイトヘッドは、ぐれてしまって、哲学に進んだ。
そういえば、バートランド=ラッセルは、自分の頭がよいときには数学をやり、頭が悪くなってからは哲学をやったと言っていた。
おいおい、最初から哲学をやった私の立場はどうなるんだ!? あ、最初から頭が悪いってことか。
それはともかく、ホワイトヘッドは哲学に取り組んだ。「有機体(ゆうきたい)の哲学」というものだ。プロセス哲学ともいう。
その哲学に関しては『過程と実在』Process and Realityが著名である。しかし、たいていの人は知らない。
日本人の宗教観などは、基本的には自然崇拝(しぜんすうはい)なので、ホワイトヘッドの思想を受け入れる土壌(どじょう)がある。
しかし、漠然(ばくぜん)としたものであるとはいえ、日本には神道(しんとう)があるのだから、今更(いまさら)、ホワイトヘッドのプロセス哲学に与(くみ)する必要はそれほどない(はずである)。
これは、原始仏教や栄西(えいさい)の臨済宗(りんざいしゅう)や道元(どうげん)の曹洞宗(そうとうしゅう)などの禅(ぜん)の思想があるにもかかわらず、ごく一部の日本人がマルティン=ハイデガーMartin Heideggerの存在論(そんざいろん)に入れ込んでいるのと似(に)ている。
どうにも、不思議(ふしぎ)な現象(げんしょう)なのである。人文科学(じんぶんかがく)に関しては、西洋のほうが遅れている側面(そくめん)がある。ただ、日本は十全(じゅうぜん)には言語化(げんごか)しないのだが……。
ホワイトヘッドのプロセス哲学は、無意識のものを含(ふく)めて、東洋趣味のあるごく一部の人々にしか受け入れられなかったような印象がある。
これは、現在の英米の哲学の主流が分析哲学や言語哲学であることからも伺(うかが)われる。
ただ、不思議なのは、東洋的思想に到達(とうたつ)したホワイトヘッドの思想をありがたがって、崇(あが)める日本人がいることである。
もっとも、ホワイトヘッドが日本に残した功績(こうせき)もある。
『観念の冒険(かんねんのぼうけん)』Adventure of Ideasという著書がある。
この題名は、なかなかかっこいいと思えるものだったらしい。
その後、日本の出版業界では『◯◯の冒険』という書名が多くなった。
それにしても、あれほど頭のよい人が、日本に対して残した最大の功績(こうせき)が『◯◯の冒険』という書名だけだったというのは、哀(かな)しい。
[まとめ]
相対性理論では惜(お)しいところで駄目(だめ)だった。2番だった。
数学を基礎づけようとしたが、ゲーデルの不完全性定理によって駄目を押された。
哲学に転進したが、じつは神道の考えを言語化したに過ぎないような内容だった(らしい)。
日本の出版業界で『◯◯の冒険』という題名を流行(はや)らせただけだった。
どんなに頭がよくても、タイミングが悪いと、その能力の割には成果(せいか)が出せないこともあるということなんだろうな。
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