真っ白い表紙に「あなたに映画を愛しているとは言わせない」と大書された文字と、左隅(ひだりすみ)に小さく「enter」と書いてあるだけのもの。こんな感じ。
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あなたに
映画を愛しているとは
言わせない
enter
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私自身がシンプルなものが好きだからということもある。
蓮實重彦は、現在、東京大学名誉教授で、1997年から2001年まで東京大学総長を務めている。総長選挙後、記者会見で、「率直な感想は?」と記者に訊(き)かれ、「いささかの喜びを感じている。……というのも、記者会見にあたって、『率直な感想』を訊かれるかどうか、友人と賭けをし、私は、訊かれるに賭けていたからだ」
うまい。入念に準備して、この答えを用意していたな。
この件について、大学の先輩で、熱烈な蓮實重彦ファンに「いやあ、小粋(こいき)なフランス風エスプリespritってやつですな」と言ったら、「蓮實さんを馬鹿にするな」と叱(しか)られた。からかっていただけなんだけど。
ほかに、気に入っているウェブサイトの表紙は建築家の隈研吾(くまけんご)のKengo Kuma and Associates(隈研吾と仲間たち)の表紙。こんな感じ。
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JAPANESE | ENGLISH リクルート | RECRUIT
Kengo Kuma & Associates | 2-24-8 BY-CUBE 2F Minamiaoyama Minato-ku Tokyo 107-0062 \ T +81 03-3401-7721 F +81 03-3401-7778 | © Kengo Kuma & Associates
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↓実物はこちら。
個人的には、隈研吾が設計したM2というポスト=モダンPost Modernな建築作品が好きなんだけど、その建物を知っている人はみんな、「あの変な建物」という反応をする。のみならず、隈研吾自身、今はスタイルが変わっていて、当時の建築物を否定したいらしい。
柱というものは、なにかを支えるためのものである。柱しかなければ、それは柱として機能していないし、柱とはいえない。ところが、M2は、円柱の形状をしたものが、建物の中心にでーんと据(す)わっている。柱の形をしているのに、何もささえていない。環状8号線をオートバイで走っているときに、これを初めて目にして、どうしようもないほど感動した。何も支えていないということで、見るものに改めて、柱というものの本来の機能を再確認させるものなのだ。
具体的に、どんな建築作品であるかについては、M2-隈研吾を参照のこと。
また、隈研吾の『新・建築入門』(ちくま新書)を読んで、哲学史と建築史とを重ね合わせる叙述(じょじゅつ)を読み、感心したのだけれど、この本に対して批判的な人は少なからずいるようだ。それが不思議なんだけど、批判的な人に知識・教養が充分には備わっていないのか、それとも自分が、建築について詳しくないから不思議に感じるか、どっちなんだろうか?
ところで、蓮實重彦は、フランス文学者なのに、コーディネーターでしかなく、実際にウェブサイトを製作したのが別人らしく、「あなたに映画を愛しているとは言わせない」は、英語を使っている。フランス語よりも英語を使う人のほうが多いということもあるし、また、フランス語だとわからないという人も多いのだろう。
英語で「enter」とあっても、これは、動詞の原形なのか、命令文なのか、はっきりしない。フランス語のウェブサイトを閲覧(えつらん)すると、つぎの4つの表記法がある。
1) entrer フランス語の不定形(英語の「原形」にあたるもの)を使う。
2) Entrez 丁寧な命令形を使う。
3) Entre ぞんざいな命令形を使う。
4) enter いっそのこと、英語をそのまま使う。
フランス語での混乱ぶりがわかるであろう。インターネットというものは、所詮(しょせん)、アメリカのものだというのが、この点からも伝わってくるというものだ。
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