表題作の「優しくって少し ばか」は、彼女の部屋に泊まった主人公が風邪をひいて、熱を出した状態で、ふたりしてとりとめのない会話を重ねつつ、主人公の想念が入り混じり、ぐだぐだした感じの小説。
文体に感動する人もいるかもしれない。作者本人によれば、こういうことだそうだ。
表題作の「優しくって少しばか」は、新しい文体を試みた作品です。点を省いて不思議なところで改行し、マルを打つ。これによって読む時の日本語の不思議なリズムが出せればいいなぁと思ったわけです。風邪をひいて寝ている彼女と僕とがベッドの中にいて動きがまったくないという、グダグダした感じを出せれば……と、このような文体を使用してみたのです。
文体はともかく、主人公の行きつけのパン屋さんは、計算が得意ではないらしく、値段が50円単位でついている。パンの値段が、50円、100円、150円、200円、……という具合だ。値段を見て、主人公は、そのパン屋さんは計算が得意ではないと推測する。「優しくって少し ばか」の代表例というか、典型というか、そういうのが、パン屋のことらしい。むろん、主人公なども「優しくって少し ばか」なんだろうけど。
この本を読んだのが、30年近くも前のことなんだけど、当時、住んでいたマンションの最寄り駅近くに八百屋があって、そこも、パン屋さんと同じ値段のつけ方をしていた。50円、100円、150円、200円、……ってなわけだ。ほかの店の値段と較べると、これは130円くらいが妥当(だとう)なんじゃないかと思うけど、150円になっていたり、220円くらいのところが200円になっていたりした。深く考えずに買っていれば、自然と均(なら)されるだろうから、あまり値段を気にかけなくてもよいし、実際、気にしていなかった。尤(もっと)も、この八百屋さんは「威勢がよくって少し ばか」だったかもしれない。
以上の話を、以前、当校の生徒にしたところ、こんな指摘を受けた。
ここの受講料って、500円単位になってますけど、ということは掃除機先生はパン屋さんや八百屋さんよりも、ひと桁(けた)分、さらにばかってことですか?
それはまずいということで、496円の倍数になるように、受講料を設定し直した。その結果、1円単位まで細かい数字の並んだ受講料一覧になっている。わけがわからなくないものになっているわけだ。
「ばかじゃないけど、少し優しい」を目指しているのだ。
追記:やっぱり面倒くさいので、496円の倍数になる授業料設定はやめにした(2013年1月)。
追記:やっぱり面倒くさいので、496円の倍数になる授業料設定はやめにした(2013年1月)。
『黄色いドゥカと彼女の手』と『時々、風と話す』は、『優しくって少し ばか』の前に出版されていたと思う。オートバイ雑誌に書いたもので、たぶん、普段、小説を読まない層を対象に書いた短編で、娯楽として読み流すのであれば、この2冊のほうが楽に読めるだろう。
追記:Googleで「優しくって少し ばか」を検索してみたら、「優しくって少しバカ」というタイトルの曲が出てきた。小説とはなんの関係もないようだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿