2013年3月6日水曜日

高級品を身に纏(まと)ってバイトしたら、オーナーの服装なども高級品に変わっていった話

 近所の大学生の話である。

 彼の家は富裕層(ふゆうそう)に属(ぞく)する。だから、お金に困っているわけではないが、なんとなく経験してみたいと思って、西武池袋線の、とある駅前にあるコンビニエンス=ストアで、週2回、午前中に3時間ほど、アルバイトを始めた。

 オーナーの服装や靴を見ると、ユニクロUNIQLOを着ていたり、なんとなく安物を身に着(つ)けていたりしていた上に、運動靴はダンロップの4,000円程度のものだった。

 因(ちな)みに、ダンロップやブリジストンの3,000円から4,000円のカジュアル=シューズやスポーツ=シューズは、費用性能比(ひようせいのうひcost performance)にすぐれるので、運送業の人たちに愛好者が多い。

 客の数が多く、通常のコンビニエンス=ストアではレジが2つしかないところ、その店には3つもあり、しかも客の行列ができる店なのに、オーナの恰好(かっこう)から、あんまり儲(もう)かっていないのかもしれないと考えた。

「仕事がしやすく、疲れにくいように、ジーンズに運動靴で来てください」と彼はオーナーに言われた。

 周囲にあわせた身(み)なりで行ったほうがよいだろうとは思ったものの、高級品しか持っていないので、仕方なく、5万円のジーンズを穿(は)き、定価3万円ちょいのニュー=バランスNew Balanceのシューズを履(は)いて行った。シャツもベルトも腕時計も、すべて高級品だった。

 若い男性のアルバイトには、グランジ=ファッションgrunge fashion(ぼろ屑(くず)ファッション)が多いなと思ったが、ファッションではなく、単にお金がないだけだと気づいたのは、隨分(ずいぶん)と時間が経(た)ってからだった。彼には「お金がない」というのがわからなかったのだ。

 アルバイトを始めてから、オーナーの服装が変化した。高級品を身につけるようになった。

 なんでも、こういうことらしい。

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 オーナーは、小汚(こぎたな)い恰好(かっこう)をしているアルバイト店員に気を遣(つか)って、安物を身に着(つ)けていた。

 ところが、大学生が高級品を身に纏(まと)っていても、だれも気がつかなかった。アルバイト店員たちは貧乏なので、安物と高級品の区別がつかなかったのだ。

 それに気づいたオーナーは気兼(きが)ねなく、好きな靴・好きな服を身に着(つ)けるようになり、その学生アルバイトに感謝の意(い)を示したそうである。
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 オーナーが穿(は)いているチノ=パンツはノー=ブランドだが、明らかに生地(きじ)が高級品で、釦(ぼたん)ホールも手縫(てぬ)いだというのが見て取れるものだった。

 それで、彼は「いい生地(きじ)ですね。仕立て屋さんに作らせたようですけど、合計で、いくらかかりました?」と訊(たず)ねた。

「ん? ……言わないよ」

 そんなふうなのに、オーナーに年収を訊いたら、500万円くらいだという。そのことに彼は疑問を抱(いだ)いていた。

 私の答えはつぎのようなものであった。

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 伝統的に日本的価値観では、金を稼(かせ)ぐことは恥ずかしいことであり、本当に稼いでいる人は、なんらかの形で少なくなるようにして答える。

 あそこの店舗は、好立地(こうりっち)で、駅前であり、住宅地もあるし、同時に企業も多い。

 住宅地があるということは、駅から自宅に帰る夜の買い物客が多いということである。企業が多いということは、昼に弁当を買いに来る客も多いということである。

 少なく見積(みつ)もっても、年収1,500万円はいくはずである。2,000万円を超えていてもおかしくない。

 その場合、税金対策で、ほかの家族、奥さんや、存命なら母親・父親の給料として計上し、自分の分を少なくする。

 その上で、税金や年金などを引いたあとの残りの金額を答える。

 これが伝統的日本人の行動パターンである。
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 なお、逆のパターンもあって、たとえば、フリー=ライターなどは、すべて「コミコミ」の年収を答えたがる。年収を訊(たず)ねると、「大台(おおだい:年収1,000万円)にちょっと足りない」と答えたりするが、取材費まで入れた金額を答えていたりする。「大台=1,000万円」という時点で貧乏臭いな。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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