篦竿(へらざお)とは、篦鮒釣(へらぶなづ)り専用の竿(さお)である。私の実家がある和歌山県橋本市は篦竿の全国シェアの90%を占める。
AKB48の総選挙で、投票権をできるかぎり獲得(かくとく)するために、同じCDを何枚も購入する例があった。なかには、200万円以上を費(つい)やしたファンもいたそうである。
そこで、いい年したおっさんで、似たような例を挙(あ)げてみた。
高校時代の友人の父親は篦竿(へらざお)職人だった。その父親は、元・自衛隊員であったが、何年もかかって部下が5人か6人持てるようになった。しかし、防衛大学校の1期生が入隊すると、はじめから同じ数の部下を持つのを見て、軍隊は勉強ができないと出世できないと悟(さと)り、職人として生きることにし、篦竿(へらざお)職人となった。なお、息子は国公立大学の医学部に進学して、現在、評判のよいクリニックを経営しているから、別段、地頭(じあたま)の悪い家系ではないだろうし、また、地頭(じあたま)が悪ければ、トップクラスの職人にはなれない。
自衛隊を辞めたとはいえ、職人としての生活の傍(かたわ)ら、自衛隊に関わる業務を少しはしていた。たとえば、自衛隊員のスカウトだとか。
その人は2人の政治家を尊敬していた。中曾根康弘(なかそねやすひろ)と源田實(げんだみのる)である。
中曾根康弘は元・内閣総理大臣で、防衛庁長官を歴任している。また、1954年に「原子力予算」を国会に提出し、成立させている。これは、核武装したければ、いつでもできるようにするための布石(ふせき)だったらしい。
源田實(げんだみのる)は、元・海軍大佐で、26歳で真珠湾攻撃の作戦計画案を作成した。また、自衛隊の第3代航空幕僚長も務めている。全国区選出の参議院議員を4期24年務(つと)めた。
友人の父親は、百貨店などで買えば130万円ほどする超高級篦竿(へらざお)をこの2人の政治家に贈った。
友人の父親によれば、問屋(といや)に卸(おろ)すときは、30万円くらいだけれども、百貨店に並ぶときには130万円くらいになっているという。もはや、実用品ではなく、美術品の扱いなのだそうである。
職人本人はというと、篦鮒釣(へらぶなづ)りするときには、カーボン製の竿(さお)を使っているという。「竹製だと強い引きのときに竿が曲がってしまうから」とのことである。
その一方で、カーボン製の竿は落雷が怖いとも言っていた。雷(かみなり)の日に釣りに行かなくてもいいんじゃないかなと心の隅(すみ)でこっそり思った。
元値(もとね)が30万円の竿を、市場価格が130万円だからといって、たとえば、70万円で問屋を通さずに個人で売ると、取り引き停止の罰則(ばっそく)があった。しかし、自分で製作した竿を、友人や知人に無料で譲(ゆず)ることは許(ゆる)されていた。
そこでその人は、竹藪(たけやぶ)を探しまわり、これぞ、最高の素材だという竹を見つけ、自らの職人魂(しょくにんだましい)を発揮(はっき)し、丹精(たんせい)込めて、篦竿(へらざお)を2竿(ふたさお)、製作して、1竿(ひとさお)ずつ、大ファンである中曾根康弘と源田實に手紙を添(そ)えて贈った。
それぞれから、色紙と鄭重(ていちょう:丁重とも書く)な礼状が送られてきた。
中曾根康弘の色紙の文言(もんごん)は思い出せないのだけれども、源田實の色紙にはこう書いてあった。
知者不言
言者不知
「知る者は言わず、言う者は知らず」という『老子』にあることばだ。
また、両者の礼状は、巻紙(まきがみ)に認(したた)められたものだった。達筆(たっぴつ)で、昔の人は字が上手(うま)いとつくづく感心した。
因(ちな)みに、曾(かつ)ての日本の小学校では、書道の時間が毎日あったそうだ。
ところで、政治家に市場価格130万円のものを贈って、贈賄(ぞうわい)にならないのかという疑問があった。私は法律を真面目に勉強したことがないので、よくわからない。
ものを贈っても、利益誘導(りえきゆうどう)などがなければ贈賄にはならないらしい。
但(ただ)し、近所の竹藪(たけやぶ)で見つけた竹を使って、加工し、漆(うるし)や金箔(きんぱく)を使用していても、材料費だけだと、1万円にもならない(竹は0円とした)。市場価格が130万円といえども、材料費はそのくらいだ。
さて、市場価格130万円のものを贈ったといっても、便宜(べんぎ)を図(はか)ってくれとは依頼していないし、利益誘導を依頼しているわけでもない。
色紙がもらえるとうれしいというだけのことだった。
そう考えると、贈賄(ぞうわい)にはならないと思える。
一方、市場価格130万円の篦竿(へらざお)となると、贈与税の控除額(こうじょがく)は110万だから、脱税にならないのだろうか?
それとも、材料費1万円の手作り品ということで、1万円くらいの贈与だということになるのだろう?
30数年前の話だから、なにかあっても時効(じこう)だから、書いてみた。
AKB48の総選挙で大金をつぎ込む人と較べて、市場価格の合計金額で260万円分のものを進呈した人のことをどう思うかと生徒に訊(たず)ねてみたところ、中曾根康弘や源田實の色紙は、将来、高く売れそうだから、AKB48に大金を投ずるよりも、よっぽどいいという意見が多かった。
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自己紹介
- 掃除機庵主人
- 和歌山県, Japan
- 早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。
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