1980年あたりに「荒れる中学生」が出現した。『3年B組金八先生』の第2シリーズで荒れる中学生を扱ったが、初回放送は1980年10月3日だった。
この「荒れる中学生」の主体は、高度経済成長期に都会に出てきた最終学歴が中学卒業の者の子どもたちであった。ちょうど最近の、というか、ちょっと前の支那(中華人民共和国)と同じような状況で、1弗(ドル)=360円の時代では、作れば作るほど輸出できたから、中卒でもできるような単純作業の仕事をしていても賃金はぐんぐん上昇していった。
終戦直後は、食べるものさえなく、戦災孤児(せんさいこじ)になった子どもたちが、生きていくために強盗殺人を行なった時代である。
食べていけるだけでしあわせだったであろう。同盟罷業(どうめいひぎょう:ストライキ)などはあったが、全体として考えると、彼らは特段の不満を抱くことがなかった。
1960年には池田勇人内閣のときには「所得倍増計画」を策定(さくてい)されたくらいである。しかも、日本の経済は所得倍増計画以上に成長した。賃金が上昇していくのだから、勉強していなくても、真面目(まじめ)に働けば、よりよい暮らしになると思ってしまったのも無理はない。
しかも、当時の東北地方をはじめとする地方の中学校では、定期試験も実力試験もなかった。高等学校の進学率が20%の時代に、試験を行なう必要はなかった。そうした緊張感のない生活を送ってきた者たちが、中学を卒業すると「金の卵」として、都会に出てきた。集団就職のための「就職列車」というものがあった時代である。
経営者たちは、安価(あんか)な労働力の確保のために、地方の中学校を駈(か)けずりまわった。福利厚生(ふくりこうせい)を厚(あつ)くし、全寮制にして、家賃・食費を無料またはきわめて安価に抑(おさ)え、人材確保に奔走(ほんそう)した。
高度経済成長期に都会に出てきた中卒の人々は当時の基準で結婚適齢期となり、子どもが生まれる。それが1965年を中心とするものであった。その15年後は1980年である。
子どもをもうけた中卒の人々が、いつまでも、安アパート暮らしのままではいけないということで、団地の建設ラッシュが始まった。
中卒で都会に出て、単純作業ではあるが真面目に働けば、結婚もできたし、子どももできたし、立派な団地にも住めるようになった。なんの不満もない人生だ。
ところが、その子どもたちはというと、親が定期試験すらない中学校を出ただけで、試験勉強というものをしたことがない。難関大学や難関高校に進学するには、いろいろと逆算(ぎゃくさん)して、この時期にはこういうことができていないとまずいという発想がないどころが、毎日、勉強をするという発想すらない。
そうした環境で育った子どもたちは自宅ではまったく勉強しないまま中学3年生を迎(むか)える。
そこへ、実力試験を受けさせられる。偏差値30台や40台の成績を残す。偏差値の正確な意味はわからないけれども、偏差値75を超えた◯◯君は、難関進学校に入学して、東京大学にも合格し、超一流企業に入社するか、高級官僚とかいうものになってもおかしくないという話を耳にする。
15歳で、取り戻せないほどの「差」を実感することになる。かといって、これまで勉強したことがないので、今更(いまさら)、何をどう勉強すればいいのかすらわからない。
団地と1戸建(いっこだて)との「差」も実感する。なんだか正体のわからない感情が渦巻くが、自分でも何なのかわからない。「憤(いきどお)り」でも「不満」でも「怒り」でもない感情である。
しかも、貧困家庭(ひんこんかてい)であるが故(ゆえ)に、高校に進学できないとか、大学に進学できないという時代ではなくなっていた。最早(もはや)、『キューポラのある街』の時代ではなくなっていたのだ。
勉強が苦手なのに、上級学校に進学しなければならない状態になっていた。親も高校ぐらいは出てくれという。
しかし、中学生の半分は中学数学がわからなくなっている。そんな状態で、進学しなければならないのでは、絶望的な気分になる者がいるのは理解できなくもない。
そうして、「荒れる中学生」が出現した。主体は「金の卵」第2世代だった。
第3世代は、出生年度(しゅっしょうねんど)がバラけたので、1980年あたりほどのことにはならなかった。
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自己紹介
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- 早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。
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