アンドリュー=ワイルズAndrew Wilesはフェルマーの最終定理Fermat's last theoremを証明した。
1986年の夏、証明に着手した。
彼は徹底した秘密主義で、証明を推(お)し進めた。フェルマーの最終定理を証明したという名誉が欲しかったようだ。証明の途中までを公表して、その続きをだれかにやられたら、証明をしたという名誉はその人物のものとなってしまう。
当時、アンドリュー=ワイルズが在籍していたプリンストン大学Princeton Universityには、谷山=志村予想Taniyama-Shimura-Weil conjectureの志村五郎がいた。フェルマーの最終定理は、谷山=志村予想、即(すなわ)ち、「すべての楕円曲線はモジュラーである」というのを証明すれば、その系として、フェルマーの最終定理の証明もおまけとしてついてくることがわかっていた。その志村五郎にまったく相談していない。
また、怖ろしく仕事が速いゲルト=ファルティングスGerd Faltingsもプリンストン大学の同僚であった。アンドリュー=ワイルズが最も怖れたのはゲルト=ファルティングスだという気が、なんとなく、私にはしていた。
学会誌などに、証明の途中経過を公表すれば、たとえば、フェルマーの最終定理の証明において貢献をしている加藤和也(美空ひばりの息子である加藤和也ではなく、美空ひばりの息子よりも男前で、しかも美空ひばりの息子よりも数学が得意なほう)あたりも、証明を完了するかもしれなかった。
フェルマーの最終定理を証明したと発表したのが1993年6月23日で、ここまでで7年かかっている。その間、代数幾何学を専門とするニック=カッツNick Katz(キャッツと発音する人もいる)を自分の研究室に呼び出し、この部屋でのことはだれにも言わないとの約束をしてもらった上で、苦手な分野について、これで問題はないかと訊(たず)ねようとしただけだった。
その後、自分の考えをニック=カッツに詳細に確認してもらうために、大学で講義を設定した。受講生はニック=カッツと、数人の大学院生だったが、大学院生たちは、講義のレベルが高すぎるために、つぎつぎと受講するのをやめた。その後は、ニック=カッツを相手に1対1で講義をするようになった。
最終的には、ニック=カッツは、それでいいと思うよと答えた。ニック=カッツは証明上の致命的な欠点に気づいていなかった。
最初の証明は、5人の数学者が分担(ぶんたん)して査読(さどく)し、不明な箇所についてはメールで質問し、アンドリュー=ワイルズから返信が届くということを繰り返した。
ところが、証明の過程上(かていじょう)に致命的(ちめいてき)な溝(みぞ;gap)が存在することが判明した。それに気づいたのは、皮肉(ひにく)にもニック=カッツだった。1993年8月のことだった。
その後、致命的な溝を修正するために、アンドリュー=ワイルズは1年以上、格闘することになる。
どうしても溝を埋めることができないままでいると、だれかに手伝ってもらえばという助言を受けるようになるが、どうしてもひとりで証明したいので、断り続けた。ひとりで証明したという名誉が欲しかった。
アンドリュー=ワイルズの弟子のリチャード=テイラーRichard Taylorなら、性格も人柄(ひとがら)もよいから、共同で証明したとは言い出さないだろうから、彼に手伝ってもらえばいいのではないかという提案は受け入れた。
ところで、一向(いっこう)に新たな証明が完成しないことを耳にしたゲルト=ファルティングスは「ワイルズができないんだったら、証明はそもそもできないんじゃないの」と言った。
最終的には、証明を実質的に完成させたのは1994年9月19日のことだった。それまで採用していたコリヴァギン=フラッハ法Kolyvagin-Flach methodを棄(す)て、以前に採用していたが、それを拡張した方法の証明ができなかったので応用することをやめた岩澤理論Iwasawa theoryを再び採用した。
これによって、致命的な溝を埋めることはなく、溝を巧(たく)みに回避した。致命的な欠点を解決したto solveのではなく、謂(い)わば、「解消」したto dissolveのである。
新たなる論文はプリンストン大学・プリンストン高等研究所Institute for Advanced Studyが発行するAnnals of Mathematics(敢(あ)えて訳せば『数学紀要(きよう)』)の特別号に掲載された。
その後、アンドリュー=ワイルズは、自らの証明を、更(さら)にエレガントに[=簡潔で美しく]したものを執筆し、5人の数学者に配布した。そのうちのひとりがゲルト=ファルティングスだった。
ゲルト=ファルティングスは、その証明のうち、3分の1か、5分の1かの部分を、更(さら)にエレガントなものにしてアンドリュー=ワイルズに送った。
この話を知ったとき、腹を抱(かか)えて笑ってしまった。彼ならそういうことを悪意なしにやりそうだからだ。
当校の生徒の反応は2つにわかれた。
1)性格の悪い禿(はげ)のおっさんだ。
2)数学者なら当然のことをしたにすぎない。
ところが、話はここで終わらない。
京都大学数理解析研究所教授・望月新一の登場である。
彼は2012年8月30日、abc予想を証明する論文をウェブ上で公開した。
このabc予想の証明が正しければ、数多くの予想や定理が導かれる。のみならず、フェルマーの最終定理も簡単に証明できる。ということは、フェルマーの最終定理を証明するために8年かけたアンドリュー=ワイルズの業績が、空無化(くうむか)するとまではいえないまでも、霞(かす)んでしまう。
そして、なんと、望月新一はゲルト=ファルティングスの弟子だった。
なんというか、ゲルト=ファルティングスが送り込んだ刺客(しかく)のように見える。
この30年間のフェルマーの最終定理を巡(めぐ)るの数論の世界は、なんだか、プロレスみたいな気がする。
このあたりで加藤和也(あるいはその弟子)が参入してくれると、日本人としては、頗(すこぶ)る楽しいのだが。
また、最近は表立った活動をしていないニコラ=ブルバキNicolas Bourbakiも参入してくれると個人的に嬉(うれ)しい。ニコラ=ブルバキというのは、フランスの若手数学者の集団による共同ペンネームで、一定の年齢になると引退し、会員からの推薦により、その分野の数学者が新たに補充(ほじゅう)される。なんだか、新日本プロレスのスーパー=ストロング=マシン軍団みたいで面白(おもしろ)い。尤(もっと)も、出版に関しては、1998年以降、活動していない。
上の動画は、フェルマーの最終定理についてBBC(英国放送協会British Broadcasting Corporation)が製作したもの。
当たり前のことだが、ここに登場する数学者たちが今よりも一回り以上、若い。1995年から1996年にかけて放送されたものらしい。アンドリュー=ワイルズの師匠であるジョン=コーツJohn Coatesは、この時点で50歳くらいなんだけど、実年齢よりも若く見える。優秀な数学者と理論物理学者は、概(がい)して、実年齢よりも若く見える傾向があるようだ。
ついでに述べておくと、優秀な数学者・理論物理学者には禿(はげ)が少なく、いたとしても、前から禿上(はげあ)がる場合のみで、天辺禿(てっぺんはげ)は皆無(かいむ)である。もしも、高校で担当の数学教師が天辺禿(てっぺんはげ)の場合は、独学で勉強するしかないと、すっぱりと諦(あきら)めるしかない。
なお、サムネイル画像は志村五郎である。『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する鼠男(ねずみおとこ)と貧乏神とを足したみたいな外見だな。
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自己紹介
- 掃除機庵主人
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- 早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。
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