その生徒は、中学校に入学したときの1学期の中間試験で、学年でビリから5番以内という成績だった。
その生徒は小学校のときから勉強が苦手だった。それに母子家庭でもあった。それを心配した祖父母が、自宅ならびに経営している店舗の近くで、学習塾を探した。当校は、店舗から自宅に帰る道すがらにあった。パンフレット=スタンドにあるパンフレットを読むと、信じられないくらいの成績の向上が書いてある。
自宅に帰る途中、ときどき、塾の様子を伺(うかが)った。笑い声が聞こえたり、遊んでいたりする。それで、どうして、成績がそんなに伸びるのか、不思議だったけれど、埼玉県に住んでいる孫を、1時間以上の通学時間がかかるけれども、土曜日と日曜日には当校に通うようにと説得した。
その生徒は、部活動の大会がなければ、土曜日と日曜日に当校に通っている。土曜日に来て、祖父母宅に泊まり、日曜日にも受講するのが通常である。
1年と数か月が経(た)った。中学2年生である。
その生徒が、中学校で実施された業者テストで、数学で100点満点をとった。
埼玉県の公立中学校では、生徒の進路指導を的確(てきかく)にするために、東京都の区立中学校とはちがって、業者テストを校内で実施している。
公立中学校を対象にした業者テストだから、それほど難しいわけではないだろう。けれども、母親はびっくりして彼の祖父母のところに電話をかけた。あの子が業者テストの数学で100点をとったんです、と。
担当の数学教師は、学年でビリに近かったのに、100点をとったことを、ほかの生徒がいないところで大いに褒(ほ)めたそうである。
その生徒の祖父母が、その報告をしてくれた。おじいちゃんがこう言った。
「業者テストの数学で100点をとったんですよ。あの子は夢のメルヘンに行ってしまいました、あははは」
「夢のメルヘン」という表現がおもしろかった。勢いで「夢のメルヘン」と言ったけれども、これは適切ではないと思ったようで、後で「夢のメルヘンの国」と言い直していた。
なんだか、すごく、おかしかった。
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自己紹介
- 掃除機庵主人
- 和歌山県, Japan
- 早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。
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