2013年1月5日土曜日

日本人のせいで製品・商品の仕様が変わった事例(その1):モンブランのマイスターシュトゥック#149

万年筆のペン先は、その国の言語に応じて、適したものがある。いや、その国の規範的な筆記体の字体に応じて、適したものがあるといったほうがよいかもしれない。いや、これも、あやしい。こういうペン先を使っているから、そういう筆記体の字体となったのかもしれない。

それはともかく、ずいぶんと昔のことだが、フランスでは22金や20金のペン先が多かった。フランス語の筆記体は、英語の筆記体と較べ、じつに丸っこい。丸っこい筆記体を書きたいがために、22金や20金という柔らかいペン先が好まれたのか、それとも、22金や20金のペン先を使っているから、丸っこくなったのかは、不明である。

ところで、22金などの表現の意味は、金が100%の場合、24金で、22金だと金の含有量が24分の22ということで、18金は24分の18で、14金は24分の14ということである。

一方、ドイツの万年筆のペン先は14金が主流である。因果関係ははっきりしないが、ドイツ語の規範的(きはんてき)な筆記体は、グキグキとした、直線的なものである。

モンブランMont Blancのフラッグシップ(旗艦製品(きかんせいひん))であるマイスターシュトゥック149 Meisterstück #149のペン先は、もともとは、14金であった。

ドイツ語の筆記体を書くのに適していた。

また、個人的には、一般の18金のペン先よりもちょっとだけ微妙に硬い書き味が好きだし、なんていうのかなあ、日本の気候・風土に合っていないのに、無理をして海外の流行を追いかけるがごとき被虐趣味的(ひぎゃくしゅみてき)なよろこびもあった。

ところが、そのモンブランが、あるとき、#149のペン先を18金に変えた。

#149が最も売れているのが、日本であり、日本製の万年筆の主流は18金のペン先だったからだ。モンブランは日本に媚(こ)びるために、18金のペン先に変更したのだった。

このように、日本市場を見据(みす)えて、製品の仕様を日本に合わせた高級ブランドは数多い。

ドイツの万年筆製造会社にペリカンPelikanというのがあるが、ここも14金のペン先のものもあるが、18金のペン先の製品も増やしているし、フランスのメーカーも18金のペン先を備(そな)えた製品を増やしている。

高級ブランドの日本仕様が世界標準化しつつあるわけだ。

これは、よくないことだ。舶来品(はくらいひん)を買う楽しみが減ることになる。たとえば、フランス製だから、こういうところがこうなっているんだな、と思う楽しみが少しずつ減ってしまう。

現在、日本語を書くのに、対費用効果(たいひようこうか)の点で、最もすぐれているとされるのは、パイロット万年筆エラボーElaboであり、その輸出仕様であるNamiki Falcon(ナミキ=ファルコン)である。この万年筆のペン先は14金である。じつは、加工技術によって、柔らかい14金のペン先も作れるし、硬い18金のペン先も、優秀な企業であるならば、自在(じざい)に作れるのだ。

モンブランが18金のペン先に変更したのは、万年筆に詳しくない日本の富裕層(ふゆうそう)への売り上げを増やすためのものであったということがわかるだろう。どういうわけか、万年筆のペン先は18金だと思い込んでいる日本人が多いのだ。これは「18金ペン、プラチナ」という広告の影響だろう。

日本に媚(こ)びる高級ブランドは、いずれ、衰退(すいたい)するような気がなんとなくしている。事実、神田の金ペン堂は、モンブランの万年筆を扱わなくなった。むろん、これは、近年、モンブランの経営者が変わって、製品を改悪したのが原因らしい。

まあ、モンブランの万年筆は、今は、買わないのが無難(ぶなん)だろう。


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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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