題名から考えて、エッフェル塔にまつわる思い出を、だれかが語るのだろうと思った。
ところが、冒頭からして、みょうなのだ。
「私の父はギュスターヴ=エッフェルGustave EIFFELであり、母は近代科学だった」
なんだ、これは!?
エッフェル塔自身が、一人称で語り始め、自(みずか)らの生い立ち(おいたち)や人生を振り返るという小説だった。
フランス文学史なんてものは、いわば、実験小説の歴史みたいなところがあるから、こんな程度では驚いてはいけないんだよね。
ギュスターヴ=エッフェルは、もともとは橋の設計の専門家であった。だから、エッフェル塔には、橋の設計のノウハウが取り入れられている。
パリの真ん中に塔を設計するのは、フランスのエリートたちからは蔑(さげす)まれた。景観を破壊する醜悪(しゅうあく)な塔を設計するなどというのはエリートのすることではない、と。
そこで、橋の設計をしているギュスターヴ=エッフェルが、塔の設計を担当することになった。だから、エッフェル塔のデザインは、橋の設計を応用したものになっている。
東京タワーや、法隆寺(ほうりゅうじ)の五重塔に基づく東京スカイツリーとは、設計思想がまったく違っている。
また、ギュスターヴ=エッフェルは、アメリカ合衆国にある「自由の女神」の設計を担当している。
エリートではなかったが、後世(こうせい)に名を残した例である。
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