それでも、メルツェデス=ベンツは人気者だ。うちの生徒の保護者で、2番目に多いのがベンツ=オーナーで、3番目はBMWオーナーだ。1番目はというと、「東京のように交通機関の発達したところでは自動車は要らない」という立場だが、これは当たり前だな(笑)。
メルツェデス=ベンツを買う理由というものが存在する。まず、例をひとつ挙げよう。
大学の同期生は、実家が埼玉にある不動産屋で、自分の親父に「ベンツなんかに乗っているのはかっこわるい」と言ったことがあり、こっぴどく反論されたという。彼は、早稲田大学第一文学部出身で、一般に、文学部出身者は、トヨタやベンツを好まないような気がする。ちなみに、自分ならびに自分の文学部時代からの友人知人の車種を挙げてみる。
ホンダ=ビートBeat(軽自動車の2座席オープンカー。ミッドシップ=エンジン。ホンダのNSX生産中止後は、量産車で最も車高が低く、座席に坐ったまま、道路で煙草の火が消せる。それくらいに低い)
ミニMini(ローヴァーRover社のものを乗り続けている。今はBMWが新型を製造している。旧(ふる)いやつは右ハンドルなのに、ウインカーのレバーが逆についている)
マツダRX-7(ロータリーエンジンのスポーツカー。足回りがサーキット用のスパルタンな設定になっていて、気が抜けない)
光岡ビュートViewt(中身は日産サニーだが、外観はクラシックカー)
フィアット500(ルパン3世の乗っているちっこい自動車の最新版)
プジョー106(おふらんすのちっこい自動車)
以上のように、文学部出身者は、変な自動車を買う傾向が強い(もっとも、私の交遊関係に偏(かたよ)りがあるのかもしれないが)。
大学の同期生の親父は、不動産業を営んでおり、メルツェデス=ベンツでも、560SELやS500などを乗り継いでいる。親父は息子にこんなことを言ったそうだ。
2億円・3億円の物件を動かす商売をしているやつが、白いカローラに乗っていたら、信用されないだろう。かといって、(英国の)ジャガーJaguarや(イタリアの)マゼラッティMaserattiだと、クルマ道楽のやつだと思われ、堅実な商売をしているかどうか疑われてしまう。(アメリカの)キャディラックCadillacやリンカーンLincolnも堅実さを疑われるという点で、不可。(ドイツの)アウディAudiや(スウェーデンの)ボルボVolvoだと、よほど自動車に詳しくないかぎりは知られていないので、一定のイメージを与えることができない。だから、ベンツでなければならないのだ。不動産屋にとってベンツは、銀行員にとっての背広とネクタイみたいなもんだ。
なるほど。不動産屋は、信念をもってメルツェデス=ベンツに乗っていたんだと、みょうに感心してしまった。
あるとき、近所の不動産屋(といってもそれほど近所ではないが)の社長に、世間話のついでに、埼玉の不動産屋の発言を話したところ、その社長も大いに感心していた。2か月後、メルツェデス=ベンツS500を買っていた。
「掃除機くんから聞いた話は、説得力があって、あの話をしたら、女房の許可が出たので、S500を買ったよ」とうれしそうだった。
不動産業に限らず、同じような観点から、ベンツが接待ゴルフなどに取引先の担当者を連れて行くのも適しているようだし(CタイプまではOK、Eタイプは接待用としては駄目らしい)、下取り価格もBMWやジャガーと較べても高い。また、防弾ガラスにしたり、自動車の下に爆弾を仕掛けられても大丈夫なようにしたりする場合、専門の業者がいるので、メルツェデス=ベンツを改造するほうが安上がりだそうだ。つまり、経済的な側面からも、メルツェデス=ベンツが「お得」といえば「お得」なんだそうだ。
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