初めて目にしたとき、そのおじいさんは実にゆっくりと歩いていた。
買い物に出かけて、20分後に戻っても、5メートルくらいしか進んでいなかった。
そのおじいさんは脳梗塞で右半身が不自由になっていたようだった。
朝・昼・晩と、毎日、只管(ひたすら)、歩いていた。歩くことがリハビリであるようだった。
1年も経つと、歩く速度が随分(ずいぶん)と速くなっていた。
ある日、単車で走っていたら、「あのおじいさんがこんなところを歩いている」というのに出喰(でく)わした。信じられないくらいに遠くまで出かけていた。
こんなところまで歩いて来られるくらいになったのだなと感心した。
それから暫(しばら)くして、自宅に戻ったら、そのおじいさんはタクシーで帰宅した。
タクシーを使わないと戻つて来られないくらいに遠くまで歩いて行けるようになっているということに、私は大層(たいそう)感動した。
その後、そのおじいさんは、タクシーを使わないと戻れなくなるほども遠くに出かけたことに懲(こ)りたらしく、自宅周辺をぐるぐると廻(まわ)るようになった。
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