2008年12月31日水曜日

食事と勉強、あるいは頭を使う際に必要な物質(その3)

 すでに述べたように、脳が働くにはレシチンと糖質は欠かすことができないものである。ここでは、私の個人的な経験などを述べる。
 私が運営している予備校・学習塾Integrated Prep. School HAL496(rationis Heuristico-ALgorithmicae 496)では、入学試験問題の解説にあたっては、生徒の前で初見で問題を解く。事前に解答・解説を用意して、初めからエレガントな解法を示すのではなく、どういう語句に注意して問題文を読んでいるかとか、どういうことを手がかりにして解くのかなどを、実際にやってみせるのである。また、英語や国語の場合には、あらかじめ選択肢を読んでから、この選択肢は正解である確率が高いなどということを指摘してから本文を読み、その上で、再び選択肢に検討を加えるということをしたりもする。
 そうなると、思考レベルとしては高くはない次元のことであっても、脳を使うことになるので、入学試験の直前の3か月は毎日、厚揚げ2個と納豆を食べることとなる。それくらいに、レシチンの消費が激しいのである。

 別の事例を挙げよう。
 昨年の10月末に自転車で自損事故を起こした。猛烈な勢いで90°にターンして、ウイリーで階段をのぼろうとして失敗した。頭蓋骨に亀裂骨折2箇所・右頬の陥没骨折・眼窩底骨折(がんかていこっせつ)と散々な目に遭(あ)い、集中治療室に入った。集中治療室に入るのは2度目だった。最初の入院先は順天堂練馬病院で、症状が安定してから、手術を行なうにはスタッフが充分に揃っていないということで、御茶ノ水にある順天堂医院へと転院となった。
 視神経の治療を化学療法で行ない、ある程度、視力を回復させてから、右頬陥没ならびに眼窩底骨折に対する形成外科手術を行なうという。化学療法というのは、要するに、薬物で治療するということ。
 形成外科手術をするまで、相当に時間があるので、これを機会にいろいろと論文などを読んでおこうと考えた。ところが、数日すると、どうにも、読む気力がなくなってきた。理由を考えた。司馬遼太郎の小説とはちがって、頭を使って考えながらでないと読めないものなのに、病院食のメニューではレシチンが足りないということに気がついた。
 そこで、院内の売店で豆腐とゆで卵を買って食べるようにした。納豆は4人部屋なので控えた。すると、もとのように、小難しい本が読めるようになった。
 ところが、売店で売っている豆腐にだんだんと飽きてきた。それで、病院の外に出て、コンビニなどでいろいろな種類の豆腐や卵を買った。そんなこんなで数日が過ぎ、ある日、御茶ノ水から東京大学の赤門まで散歩した。おいしそうな豆腐を買おうと、途中、目につく小売店やコンビニに立ち寄った。多少の波はあるが、御茶ノ水(駿台予備学校のあるところ)から、東京大学赤門に近づくにつれて、店に置いてある豆腐と納豆と卵のグレードが上がっていったのである。
 こんなところでも東京大学らしさがうかがわれるというのが、すこぶるおもしろかった。
 究極は、赤門の真向かいにあるナチュラル=ローソン(Natural Lawson)東大赤門前店である。
 1個100円くらいの卵が売っていた。
 私が買うのはせいぜい1個60円くらいまでのものなので、これにはびっくり。もしかすると、2007年11月の時点で、たまたま試験的に置いていただけかもしれないけど。

 早稲田ではどうだったかなと考えた。学生のときは新宿区早稲田町に下宿していて、ほとんどすべてを自炊していた。自炊のための買い物は地下鉄東西線早稲田駅近くのスーパーマーケット「三徳」早稲田店で済ませていたが、豆腐や卵に関して、いろいろと置いてあって、べつだん不満はなかったと記憶している。いちおう高級食材を中心に扱う店だから。東京では珍しい大粒の納豆が売っていたのをうれしく思った記憶があるくらいかな。東京では小粒納豆やひきわり納豆がよく売れるが、関西人には納豆は食べないのが圧倒的であるが、それでも納豆好きはいて、関西の納豆好きに売れるのは大粒の納豆なんだな。
 蛇足ながら、2008年10月19日に麻生太郎首相が視察したスーパーマーケットは三徳の西早稲田店だよん。

勉強と食事、あるいは頭を使う際に必要な物質(その1)


2008年12月30日火曜日

勉強と食事、あるいは頭を使う際に必要な物質(その2)

 これがないと始まらないのが、レシチンと糖質である。ここでは、レシチン関する事例を述べる。
 レシチンを多く含む代表的なものは、大豆や、豆腐・納豆などの大豆製品、ならびに卵黄である。ほかにも、穀類・胡麻油・コーン油・小魚・レバー・鰻などが挙げられる。
 ここで、ひとつの仮説を立てることができる。よく頭を使う人は、大豆製品や卵料理が好きであるはずである。ここではそうした事例を並べてみたい。

 作家の丸谷才一は東京大学文学部英文科卒業で、芥川賞を受賞している。丸谷才一はうまい豆腐が食いたくで、目黒区のマンションに引っ越した。うまい豆腐屋を探していたときに、つぎのように考えた。どこに店があろうとも、どんな種類の大豆でも仕入れられる。うまい豆腐屋があるのは、「水のおいしい」ところだ。渋谷区恵比寿には恵比寿ビールの工場があったのだから、地下水がうまいはずだと考え、そのあたりに豆腐屋を探して、これはうまいと思える豆腐を売っている店を見つけた。

 秋山真之(さねゆき)は、勤務中だろうが、ところかまわず、炒り豆(大豆の炒ったもの)を食べていた。秋山真之は海軍兵学校を主席卒業、日露戦争時の帝国海軍の作戦主任であった。アメリカ留学中は、戦術書を大量に読み込んでいる。日本海海戦の「本日天気晴朗ナレド浪高シ」「皇国ノ興廃此ノ一戦ニアリ、各員一層奮励努力セヨ」や「古人曰ク勝テ兜ノ緒ヲ閉メヨ」なども秋山真之によるもの。

 森田和義(タモリ)とコピーライターの糸井重里は、どちらも毎日豆腐を食べているそうだ。「ほぼ日刊イトイ新聞」に書いてあった。以下のリンク先を読めば、豆腐好きがよくわかるだろう。


 女流棋士の里見香奈は史上3番目の若さで倉敷藤花のタイトルを獲得、その翌年には史上最年少記録で公式戦で男性棋士に勝っている。彼女の好物は冷やっこで、葱・生姜・醤油をかけて食べるのがお気に入りだそうだ。

 『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲は東京大学教養学部卒業だが、『美味しんぼ』では、比較的よく豆腐が登場する。卵に関しては、エッセイで「1個40円以上」でないとだめだと言い切っている。

 また、私の周囲にも(この言い方をした場合、早稲田大学第一文学部以上の大学・学部出身者である)、卵は1個30円以上のものしか購入しないと言っている人が少なからずいる。

 日本ヒューレット=パッカードに勤務している当校の元・講師に社員食堂のメニューを問い合わせたところ、一般的なメニューよりもレシチンの摂取量が多くなるメニューだった。社員が頭脳労働者であることを考慮して栄養士がそうしたメニューにしているのか、それとも人気のあるメニューを残した結果、そうなったのかは不明だが。

 そもそも、『菊川怜の頭がよくなるレシピ48』に登場する菊川怜の離乳食は納豆で、本人自身、納豆好きである。ちなみに、菊川怜自身、東京大学工学部卒業で、両親もともに東京大学卒業である。妹は東京工業大学卒業だそうだ。思っている以上に、納豆も効き目がありそうだ。

 これまでに述べた話を、生徒の保護者にしているのだが、ある母親が当校で聞いた食事と勉強の関係を父親に話したところ、その父親は「豆腐って、ご飯や味噌汁と同じで、毎日、食べるものじゃないのか?」と言ったという。その父親は、地方の公立高校から東京大学理科一類に合格、2年終了時の進学振り分けでは、平均点が85点くらいないと進めない超難関学科に進学した人物であった。「豆腐って……毎日、食べるものじゃないのか?」という人物には、好物、あるいは好きな食べ物という意識がないのである。毎日、摂取するのが当然なのである。

 私の周囲で、勉強の得意な人々は、木綿豆腐よりも絹ごし豆腐が好きな人が圧倒的である。どうしてなんだろうとずいぶんと疑問に思っていたが、もしかするとこういうことかもしれない。つまり、絹ごし豆腐を作る際に使用する豆乳は、木綿豆腐を作る際の豆乳よりも濃いからである。レシチンの消費量の多い人は自然と絹ごしを選ぶようになるらしい。

 出版社の編集者の仕事は、うんと頭を使う仕事である。文章を読むだけでも相当に頭を使うのに、企画を立てたり、原稿の手直しをしたりもしなければならない。となると、豆腐などからレシチンを摂取したくなるというものである。
 『豆腐百珍』という書がある。天明2年に刊行され、好評を博し、『豆腐百珍続編』『豆腐百珍余禄』などの続編も刊行され、百珍ブームが起こり、鯛や甘藷の百珍本が刊行されるほどの百珍ブームとなった。ほかの百珍本は復刊されていないが、『豆腐百珍』は、現代語訳つきのものが教育社新書から『豆腐百珍 原本現代訳』として刊行されている。また、『豆腐百珍』に登場する料理を再現して、その写真を掲載している本もある。ほかの百珍本の復刊はなく(ただし、『野菜百珍』『梅干百珍』など、江戸時代にはなかったものは刊行されている)、『豆腐百珍』関係の書物が刊行されているのは、編集者が頭を使う仕事であるということが影響しているのではないだろうか?

 高校生用の英語教科書UNICORN EGNLISH COURSE I NEW EDITION(2006年検定済み)の第5課はTOFU: A WORLD FOVORITEという題名の文章が掲載されている。やはり、一定以上に頭を使う人は豆腐に関心を抱くのであろう。

 高校の後輩で、アニメの脚本を主な仕事にしている人物に、レシチンの話をしたことがある。この人物は、仕事で自宅にこもって脚本の執筆を続けているときに、ふいに卵焼きが無性に食べたくなってしまうという。とくに、深夜にそうなることが多いとのことで、真夜中に卵焼きが食べたくなるのか不思議だったが、レシチンの話を聞いて、合点がいったそうである。

 勉強向きの食事を作るようになるには、その家庭での調理担当者が勉強をするのが、手っ取り早い方法である。このことは、生徒に言っている。ある生徒の母親が、ある資格を取得しようと考え、資格試験の勉強を開始した。生徒によれば、試験勉強を開始した数日後、冷蔵庫の中のものに異変が起きたという。納豆が急に増えたそうだ。「ほら見ろ、いつも私の言っている理論どおりだろう」と言ったのだが、あとになって、ちょっと心配になった。というのも、それまでは、頭を使うのに最も適した食事ではなかった可能性があるからである。

 『菊川怜の頭がよくなるレシピ48』は、既存の書籍の中ではきわめてすぐれており、現在のところ、これよりもよくできている本はない。とはいえ、普通の人以上に、勉強をする際、たとえば、受験の直前の3か月くらいの時期は、この本に掲載されているメニューに、さらに卵・豆腐・納豆・厚揚げなどを加えるのがよいかと思われる。


追記:民主党の小沢一郎が庶民派を装おうとして、好物は豆腐で、スーパーマーケットの豆腐の値段を把握しているという記事があったが、豆腐が好物だといっても、小沢一郎の場合は、頭を使っているとは思えない。「木綿(豆腐一丁)は88円くらいかなぁ。88円のが一番安くて、98円のが一番多く並んでいるかなぁ。国内産と外国産の豆では全然違うしね」と言っていたが、88円や98円の値段の豆腐を食べているようでは、さほど頭を使っているはずがないと思われる。味が薄くて食べられたものではなく、頭を使うという点であまり役に立たない(と思うが、最近、そんな豆腐は食べていないのでよくわからないが)。かといって、頭を使っているとすれば、最低でも1丁300円はする豆腐を購入しているのであろうが、それを告白すると庶民派とはいえなくなってしまう。政治家は豆腐について言及しないほうがよいということだろう。1.1.2009

2008年12月29日月曜日

勉強と食事、あるいは頭を使う際に必要な物質(その1)

 勉強に適した食事はある。いわゆるバランスのとれた食事は、適度に運動をし、適度に頭を使うのに適したものであって、脳をよく使う場合には、ある物質の摂取量が少ない場合もある。したがって、そのときの状況に応じて、適切な食事は変わってくる。
 まず、勉強向きの食事については、つぎの書籍がよくできている。

  『菊川怜の頭がよくなるレシピ48』 タツミムック 辰巳出版株式会社
  ISBN4-88641-567-9

「菊川怜の」と書いてあるが、心配しなくてよい。調理・料理監修は、香川栄養学園香友会事業部・㈱豊かな食を拓く会が担当しているからだ。



 書籍については、amazon.co.jpの「商品の説明」と「カスタマーレビュー」を引用する。

 商品の説明
 東大合格のヒミツは食事にあった! 
 東大卒女優・菊川怜が、健康と頭脳に貢献するメニューを大紹介。
 和・洋・中のさまざまなバリエーションで、頭と健康にいい8大栄養素を積極的に使った、手軽でおいしいレシピが満載。

 カスタマーレビュー
 脳に良いとされる8大栄養素をテーマに構成されたレシピ。
 栄養のバランスを重視し、図解つきで理解しやすい。
 取っつきやすく簡単な料理も多いので、外食に偏りやすい独身男性にもお奨め。
 菊川ファンにはエプロン姿や貴重な高校時代のフォトなども見逃せない。

 カスタマーレビューは1件しかなかったのだけれど、簡潔にうまくまとめている。まるで出版社の編集者がしたためたのかと思うくらいにうまい。「菊川ファンにはエプロン姿や貴重な高校時代のフォトなども見逃せない」とあるが、それが目的でこの本を買う人がいるのだろうかと疑問に思うのだが、この手の書籍は、すぐに絶版になってしまうものなのに、7年を経過しても売られ続けているのは、やはり、菊川怜の存在が大きいのかもしれない。
 頭の働きがよくなる食事についての書籍がすぐに絶版になってしまうのには、理由がある。読書家は、読書をするという時点で頭を使っている。だから、このような種類の書籍を読まなくても、いわば賢脳食とでもいうような食事を摂っている。つまり、本をたくさん購入して読書に励むタイプの人間は、脳を使うための食事をすでに実践しているので、こうした類いの本を必要としていないのである。だから、この手の本は売り上げが伸びず、比較的短期間で絶版になってしまうらしいのである。

 HAL496では、入学後3か月くらいを経過した生徒の保護者に、この本を無料配布している。『菊川怜の頭がよくなるレシピ48』を買うまでに、類似の書籍を多数、購入したが、保護者たちから、この本がいちばん使いやすいと評判である。これまでに出版されたもののなかでも、実践しやすいようである。これはよい本であろうと私自身が考えたのは、単に自分がよく食べるものが掲載されていたからである。

『菊川怜の頭がよくなるレシピ48』の最初のほうで「頭がよくなる『賢脳8大栄養素』」が紹介されているので、まずはそれをそのまま引用しよう。

頭の働きに直接関与する4本柱

脳のメカニズムを支える 不飽和脂肪酸

 いわしやさばなどの青魚に多く含まれ、脳の働きを活発にするDHA(ドコサヘキサエン酸)や血液の流れをさらさらにして、目の健康にもいいEPA(エイコサペンタエン酸)、体内でDHAやEPAに変わるαリノレン酸がその代表です。

記憶力を高め、発想力を豊かにする グルタミン酸

 脳内のエネルギー伝達を正常化して、記憶力を高めたり発想力やひらめきを生むアミノ酸の一種。コンブのうま味成分はグルタミン酸によるもの。
 海藻類をはじめ、穀類、豆類、野菜、魚介類などに広く含まれています。

脳の働きをスムーズにする ビタミンC

 知能の向上にも関与すると言われるほど、賢脳によいビタミン。
 風邪などの感染症やさまざまなストレスに対する抵抗力をつけてくれる頼もしい存在でもあります。野菜、果実などに多く含まれています。

集中力を高める カルシウム

 イライラをしずめ、集中力を高めてくれる天然のトランキライザー。
 魚類や豆類、牛乳にはこのカルシウムがたっぷり。特に牛乳にはカルシウムのほかにも、脳の活動を正常に保ってくれるミネラルが豊富です。

脳の活動をサポートするビタミン

思考にスタミナをくれる ビタミンB群

 脳内のエネルギーやタンパク質の代謝を促して、思考レベルを高めてくれる働き者。
 豚肉などの精肉をはじめ、レバーなどの内臓にも豊富。豆類や海苔にも。

学習能力を向上 ビタミンE

 血管を丈夫にしたり、細胞の老化を防ぐだけでなく、学習能力や記憶力の向上にも役立つと言われるビタミン。緑色野菜、穀類、豆類に豊富。

これないとはじまらない、別格の存在

『THE 賢脳王』 レシチン

 脳の約20%(乾燥重量)はレシチンでできていると言われ、脳内では神経伝達物質アセチルコリンに変わって、記憶や情報のやりとりをつかさどる、きわめて基本的で大切な物質、大豆や納豆、豆腐などの加工食品、卵黄などに特に多く含まれています。

脳を動かす唯一の燃料 糖質

 体内で分解され、ブドウ糖に変わるのが糖質。米や芋類に含まれる炭水化物、でんぷんがこれにあたります。実はブドウ糖は脳が使うことができる唯一のエネルギー。だから朝食抜きで頭がよく働かないのも当然。

 以上の内容で、とりわけ重要なのが、レシチンである。次回は、レシチンにまつわる事例などを中心に述べる。

2008年12月28日日曜日

アントラーズレッドと臙脂色

 早稲田大学のスクールカラーは臙脂色(えんじいろ)である。小豆色に近いような、海老茶色に近いような色である。暗い赤色といえばいいかな。シカゴ大学のスクールカラーをまねたそうだ。
 一般の大学と較べて、スクールカラーに対して愛着をおぼえる学生が早稲田には多いような気がする。合わせにくい色なのに、臙脂色のジャケットなんかを着ている学生が少なくない。
 もちろん、体育会のユニフォームにも臙脂色は使われているし、また、学生服の襟章にも臙脂色が使われている。あちこちに使われているわけだ。

 小学生のラグビーチームで、ユニフォームが早稲田大学のラグビーと同じ臙脂と黒の横縞というデザインのところも多い。これは、たぶん、地元でラグビーの指導をしている早稲田大学ラグビー部のOBが同じデザインを採用しているからだろう。小学生のラグビーチームのユニフォームのデザインは、早稲田型と、黄色と黒の横縞の慶應義塾型が、おそらく、2大メジャーだろう。

 さて、鹿島アントラーズのユニフォームの色は、アントラーズレッドというものである。早稲田の臙脂という暗い赤と較べれば、やや明るい赤であった。
 あまり日本のサッカーは観ない。とはいえ、Jリーグが始まる前年の1992年のナビスコカップの鹿島アントラーズ対ヴェルディ川崎(東京ヴェルディの当時の名称)の試合を国立競技場で観戦しているし、また、翌年の1993年5月16日の鹿島アントラーズ対名古屋グランパスエイトの試合もカシマスタジアムで観戦している。
 鹿島アントラーズの初代監督が早稲田出身の宮本征勝で、コーチなどのスタッフにも早稲田出身者が6人はいたと記憶している。パス回しなども、早稲田っぽくて、パスコースが容易に予想できるもので、こちらとしては観ていて楽しかった。もちろん、早稲田っぽいサッカーというよりは、むしろジーコのサッカーだという意見もあるが、当時の鹿島アントラーズのパス回しは早稲田っぽかったのだ。
 Jリーグ開幕のときに鹿島スタジアムで販売されているグッズを観たら、アントラーズレッドとはちがって、臙脂色のキャップなんかが置いてあった。変だなと思いながらも、強い違和感は感じなかった。早稲田出身者がスタッフに多くいるから、ちょっと臙脂っぽい色のものも入れたかったくらいにしか思わなかった。
 ユニフォームやキャラクターのデザインを決めるときには、おそらく、広告代理店の提案・助言を受けているはずである。広告代理店は、この色の場合にはどういう色調が一般に受け入れられるのかとか、この年齢層が好む赤の色調はどういうものかとか、そうしたデータを持っているから、臙脂を奨めることはないと思われる。だから、アントラーズレッドは、暗い赤ではないのである。
 早稲田出身者のなかには、臙脂にこだわりを抱いている人が少なからずいることを経験上、知っている私は、臙脂に近い色のキャップが販売されているのを見て、早稲田出身のスタッフが紛れ込ませたのだろうと思ったのだ。それでも、やはり、ユニフォームに臙脂を採用するのは、広告代理店などからは却下されたはずだ。
 試合が始まって、元イングランド代表主将のゲーリー=リネカーGary Linekerのパスは力強いなと感心しながら、鹿島アントラーズが圧倒していた。
 試合の途中で、ひとつの重大な事実に気がついた。
 汗をかくと、当然、ユニフォームは濡れる。濡れると、たいていの色は暗く濃くくすんだほうに色調が変化する。
 つまり、アントラーズレッドは、汗をかくと、早稲田のスクールカラーの臙脂色に変化する色だったのである。

 早稲田魂、ここにあり。
 いやはや、しょうもない魂だなあ。

 試合は、元ブラジル代表主将のジーコZicoのハットトリックとアルシンドAlcindoの2得点の5対0の圧勝でした。

追記:現在のアントラーズのユニフォームは、Jリーグ開幕の1993年のものよりも、深みを増して、早稲田カラーに近づいているというか、早稲田のスクールカラーに見える。現在のトップチームコーチ兼サテライト監督の奥野僚右は早稲田大学ア式蹴球部(早稲田のサッカー部の正式名称。association footballつまり、アソシエーション=フットボールあるいはアソシエーション式フットボールのことで、協会式蹴球とでも呼べるもの。だれも協会式蹴球とは呼ばないが)の出身で、社長の大東和美は早稲田大学ラグビー蹴球部(ラグビー部の正式名称)出身、一時、監督代行を務めた関塚隆は早稲田大学教育学部・ア式蹴球部出身だ。少しずつ、早稲田のスクールカラーに近づけていったらしい。いやはや、この根性には畏(おそ)れ入るな。(le 4 février 2009)



実際の色よりも赤のところが明るいような気がする。

2008年12月27日土曜日

16歳22か月

 あまり生徒の年齢は意識しない。場合によっては学年も意識していないときもある。生徒によって、小学3年生に5年生の内容を指導したり、中学2年生に高校2年生の内容を教えたり、中学2年生に小学5年生の内容を指導したりしているので、年齢はおろか、学年すら忘れているときがある。
 以前のことだが、生徒に年齢を訊ねた。
「16歳と22か月」との答えが返ってきた。
 そういうのは、普通、「もうすぐ18歳です」と答えるもんじゃないかと思ったが、一瞬、沈黙してしまった。すると、当人はそのまま続けて、こう言った。
「私は永遠に16歳なんです」
 うーん、じゃあ、26歳になったら、「16歳と120か月です」と答えるのだろうか? あるいはまた、67歳8か月のときには「16歳と500か月です」と答えるのだろうか?
 大きな疑問は、どうして16歳にこだわるのかということである。義務教育を終えた翌年というところにポイントがあるのかもしれないと思ったが、はっきりしない。

 私は小さな子ども相手には、ときどき、冗談で、「猫でいえば4歳くらいで、メダカでいえば生まれてから240日目くらい」と言ってから、実年齢を答えることがある。しかし、あくまでも笑わせるためにそう言っているのであって、本気では言っていないのだが。

2008年12月26日金曜日

サンタのトナカイはどうして飛べるのか?

 先日、「某氏はこういうことがきっかけでサンタ=クロースがいないと悟った」というネタで笑いをとろうと、小学3年生の授業で、話をふってみた。ところが、生徒は全員、サンタ=クロースの存在を本気で信じているようであった。小学3年生で小学5年生レベルの算数をこなしている生徒たちなので、本当は信じていないが、純朴そうに信じているふりをしていれば、余分にクリスマス=プレゼントがもらえると計算して、あえて信じているふりをしているのではないかという可能性も、ちょっとだけ、考えた。
 それはともかく、信じているということなので、「サンタさんがいないということを知ったきっかけ」にまつわるおもしろい話はやめておいた。
 そのかわり、サンタ=クロースはイギリスではファーザー=クリスマス(Father Christmas)と、フランスではペール=ノエル(Père Nöel)と、オランダではシンタクラース(Sinterklaas)と呼ばれているが、本名(?)は聖ニコラス(Saint Nicholas)であるという話などをしておいた。
 すると、男子生徒が、「トナカイはどうして飛べるのか?」と訊いてきた。
 困った質問である。考えたこともない。そこで、YouTubeに接続して"flying reindeer"(空飛ぶトナカイ)で検索してみた。Magic Mushrooms & Reindeer(魔法の茸(きのこ)とトナカイ)というタイトルの動画があった。これは使えそうだと、早速、再生して、動画が始まってすぐに、「このように、北極圏で生えている茸を食べるから、飛べるのである」と答えておいた。
 「ああ、そうなんだ!」と納得していた。あまりにもあっさりと納得したので、ちょっと拍子抜けした。

 そのときの動画がこれである。



 もちろん、英語のわかる人が見ればわかることだが、トナカイが飛ぶなどの伝説はベニテングダケによる幻覚作用から生まれたのではないかという説を唱えているものである。
 元ネタを日本語で紹介しているサイトを見つけた。詳しくはそこを参照のこと。


 英語がわからなければ、まるでamanita muscaria(和名:ベニテングダケ)を食べるからトナカイは空を飛べるのだと説明している動画のように見える。実際、音声を消して眺めてみたが、そう見えなくもない。
 ということで、「どうしてトナカイは空を飛べるの?」と訊かれたら、Magic Mushrooms & Reindeer(魔法の茸(きのこ)とトナカイ)のヴィデオを見せて、「北国の魔法の茸を食べているからだよ」と答えればよいだろう。



 幼い子どもへのクリスマスの贈り物としては、ここに貼りつけたロバート=サブダRobert Sabudaの飛び出す絵本で決まり。カスタマー=レビュー(顧客による感想)でも、高評価ばかりである。

2008年12月25日木曜日

立教大学文学部文学科ドイツ文学専修・フランス文学専修

 立教大学文学部ドイツ文学専修とフランス文学専修の競争倍率が、シーソーゲームなのである。
 ちょっと古いデータだが、2001年と2002年の競争率を記載する。当時の名称は文学部ドイツ文学科・文学部フランス文学科であった。

  2001年度 ドイツ文学科 2.5倍 フランス文学科 4.8倍
  2002年度 ドイツ部学科 3.4倍 フランス文学科 3.0倍

 2001年度では、フランス文学科の競争倍率のほうが高かったのに、翌年の2002年度では、わずかとはいえ、ドイツ文学科のほうが高くなっている。毎年、チェックしているわけではないが、なにかの折りに目にすると、シーソーゲームをしている。
 気になっていたので、考えてみた。
 立教大学は女子生徒にとっては憧れの大学である。煉瓦造りの校舎は、耐震性には問題はあるもの、雰囲気は抜群である。池袋という山手線の駅の近くにあるから、立地条件もよいといえる。女子学生の就職は良好である。
 どうしても立教大学に進学したいという女子生徒の存在は想像に難くない。それも、伝統を重んずるのであれば、池袋キャンパスに限定したくなるだろう。埼玉県新座市にある新座キャンパスで授業を受けなければならない学部は避けたいと考える人がいるのも理解できる。
 以上の条件で、合格しやすそうな学部学科を検討しよう。
 まず、池袋キャンパスにある学部はつぎのとおり。

  文学部・経済学部・理学部・法学部・異文化コミュニケーション学部・経営学部・社会学部

 比較的新しい学部は、就職において採用する側の企業にとって、どういう人材が多いのかがわからないことから就職には不利になることが多いので、異文化コミュニケーションと経営学部は脱落する。
 残ったなかで、理系学部である理学部も脱落する。
 文学部・経済学部・法学部・社会学部が残ったが、これらの学部の中で合格しやすいのは文学部である。
 つぎに、文学部で狙い目になるのはどこかを考える。
 ちなみに、現在、文学部は、キリスト教学科・文学科・史学科・教育学科の4つの学科にわかれており、文学科には、「英米文学専修」「ドイツ文学専修」「フランス文学専修」「日本文学専修」「文芸・思想専修」の5つにわかれている。
 学科・専修の実質倍率を眺めると、安定して実質倍率が低めなのは、ドイツ文学専修とフランス文学専修である。日本文学専修の実質競争倍率が低いときもあるが、ドイツ語やフランス語を学ばなければならないわけではないので、高くなったり、低くなったりして、不安定な競争倍率の変化を見せる。
 となると、ドイツ文学専修とフランス文学専修のいずれかを選ぶべきである。ここで、どうしても立教大学池袋キャンパスで学びたいと考える女子受験生は、受験年度の前年の競争率を参考にする。2007年度の個別学部日程での実質倍率を見てみよう。

  2007年度(個別学部日程) ドイツ文学専修 4.3倍 フランス文学専修 4.4倍

 フランス文学専修のほうがわずかにドイツ文学専修を上回っている。これだけなら、好みで選べばよいのだが、募集定員の少ない全学部日程は、倍率が大いにちがっていた。

  2007年度(全学部日程) ドイツ文学専修 6.8倍 フランス文学専修 8.1倍

 募集定員が少ないからさほど参考にはならないはずだが、人間というものは、こういう数字に惑わされてしまい、合格しやすい学部・学科・専修は文学部文学科ドイツ文学専修だと思ってしまう。
 以上の考察から、2007年の時点で、2008年度の入試では、「どうしても立教大学池袋キャンパスで学びたい」という受験生がドイツ文学専修に集まることになり、その結果、合格しやすい学部・学科は、むしろ、文学部文学科フランス文学専修だと推測できるのである。
 先日、立教大学のウェブサイトで2008年度入試の結果を閲覧した。
 予想どおりであった。

  2008年度(個別学部日程) ドイツ文学専修 4.1倍 フランス文学専修 3.4倍

 以上のことから、2009年度の入試では、「どうしても立教大学池袋キャンパスで学びたい、学部・学科は問わない」という人には、ドイツ文学専修がお奨めとなる。

 立教大学池袋キャンパスにある学部だったら、なんだっていいと考える受験生が増えても、実質的な競争は変わらないのではないかと正論は吐(は)かないように。

追記(2009年9月21日):
 立教大学のウェブサイトで2009年度入試の倍率が掲載されていた。

全学部日程 ドイツ文学専修 6.1倍 フランス文学専修 6.3倍
個別学部日程 ドイツ文学専修 3.7倍 フランス文学専修 5.7倍

 以上のことからわかるように、どうしても立教大学池袋キャンパスで大学生活を過ごしたい女子の高校生には、2010年度の入学試験では、フランス文学専修がお勧めだということがわかる。
 まあ、この手のシーソー現象というのは、中学受験でも高等学校受験でも、学校と学校の間ではきわめて頻繁(ひんぱん)に起こっていることなんだが。同一大学・同一学部内でというのは、あまり目立たないので、指摘してみたんだな。



2008年12月24日水曜日

『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(その3)

 もちろん、河合塾が指摘するとおり、悪問と呼べるものが多数存在する。しかし、大学入試の出題者は、意識的に悪問を出題しているようであり、そのことを指摘して、受験指導に役立てるようにするべきであろう。
 そもそも、私立文系の場合、大学側は社会科の選択科目で「稼ぎ逃げ」をする学生は好まないようである。だから、日本史・世界史・地理などで稼ぎ逃げができないように難問を出すのだ。関西の大学に見られるのだが、英語・国語・日本史(世界史・地理)の配点を、英語200点・国語150点・日本史(世界史・地理)100点という具合に傾斜配点にして、英語・国語が苦手な受験生が合格しにくくする。
 同じ配点にしているところは、そのかわりに、難問・悪問を多くしている。
 社会科の選択科目で得点を稼いだ学生が、入学後の大学での成績ではあまり成績が振るわないというデータもある。
 内部でしか明らかにされなかったのであるが、小論文導入以前の早稲田大学第一文学部(現在の早稲田大学文学部。昔の東京専門学校文学科・哲学科)で、過去10年分の入学者の入学試験での得点状況と入学後の成績との相関関係を調べ上げたことがある。結果はというと、入学試験での英語の成績は入学後の大学での成績に強い相関関係があったが、日本史・世界史などの社会科では、あまり相関関係が見られなかったそうだ。つまり、入試での英語の成績のよかった者は大学での成績もよく、英語の成績の悪かった者は入学後の成績も悪いという傾向にあったわけである。その一方で、日本史や世界史で高得点であった者は、成績がよい傾向にあるわけでもなく、入学後の学業成績にはなんの関係もなかった。
 入学試験での日本史や世界史の成績のよさが、入学後の学業成績をなんら担保しないのであるなら、入学試験としてあまり意味があるとはいえず、単に浪人生に有利になるだけにすぎないということから、選択科目をなくして、英語・国語・小論文という形式に変更したそうである。(もっとも、これは後に、西洋史学専修・東洋史学専修・日本史学専修の人材不足を招いたことから、再び日本史・世界史を受験科目に加えたようだ。)
 難問・悪問を出題する大学は、どうも、社会科で得点を稼ごうとはせず、英語・国語に力を入れなさいというメッセージを発していると私は考えている。

追記:以下のリンク先の記事が、何者かによってGoogleの「検索結果から除外」にされていた。


2008年12月23日火曜日

『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(その2)

 つぎのような問題も推測すれば正解できるようになっている。

栄西より日本茶が中国からもたらされたのは西暦何年か。
①1250年 ②1191年 ③1320年 ④1110年

 栄西について、受験生ならば、最低でもつぎの知識は備えているだろう。すなわち、栄西は、鎌倉仏教と呼ばれる宗派のうちのひとつである「臨済宗」の創始者である。
 栄西が、何年に、宋にわたり、戻ってきたのかを知っている必要はない。
 ポイントは、彼の宗旨・宗派が、「鎌倉新仏教」に分類されている点である。時代区分がその名称につくものは、たいてい、その時代の最初のころに登場したものである。
 たとえば、「昭和維新」とは、昭和初期に起こった国家改革の標語である。
 平安仏教といえば、真言宗と天台宗である。場合によっては、融通念仏宗も含むことがあるが、一般的ではない。平安時代は794年に始まり、1185年(ないしは1192年)まで続いている。真言宗も天台宗も9世紀初頭に、日本に持ち込まれている。真言宗も天台宗も、800年代に登場しているわけだ。
 もしも「昭和の歌姫」を選ぶとするならば、昭和20年から活躍した美空ひばりがふさわしいだろう。ただし、山口百恵という反論は認める。しかし、中森明菜は「昭和の歌姫」の称号には無理がある。登場が遅すぎるからだ。
 以上のように、時代を表すことばが伴うものは、その時代区分の初期に登場している。
 栄西の臨済宗が鎌倉仏教に数えられるという最低限の知識から、正解が得られる。選択肢の年号を並べなおそう。

1110年 1191年 1250年 1320年 

 鎌倉時代は、1185年(かつては1192年)から始まり、1333年に終わる。
 すでに述べたことからわかるように、臨済宗が鎌倉仏教に分類されるのであれば、栄西が活躍したのは、鎌倉時代の初期であるはずである。
 となると、1110年は、鎌倉幕府の始まりよりも75年(ないしは82年)も前のことなので正解ではない。
 1320年は鎌倉幕府崩壊の13年前なので、これも正解ではない。
 また、ちゃんと勉強している日本史選択者であれば、臨済宗が鎌倉幕府の庇護を受けたという事実は知っているはずであるが、かりに、栄西が宋から戻るのが1250年であれば、鎌倉幕府の庇護を受けたというのは考えづらくないだろうか? ある体制が整ってから50年以上も経過してから、幕府公認の仏教となるとは考えにくい。このあたりにまで考えることができれば、1250年も正解であるはずがないと判断できる。
 以上の推測を成り立たせるために、出題者は意図的に「1110年 1191年 1250年 1320年」という選択肢を用意したのであろう。
 つまらない瑣末な知識を憶えておけというのであれば、たとえば「1188年 1191年 1197年 1201年」という選択肢を用意していたはずである。
 出題者は、日本史で「稼ぎ逃げ」をされないようにしつつ、地頭(じあたま)のよい受験生ならば、得点できるようにと選択肢を工夫しているのである。

2008年12月22日月曜日

『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(その1)

 2000年に河合塾の丹羽健夫が集英社新書から『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』という新書を出した。
 当時、新聞や週刊誌の書評欄では、日本本土への初空襲の爆撃機の名前や空襲を指揮した中佐の名前などは憶えたくはないなどと、ある大学の入試問題がこてんぱんに叩かれた。その問題はつぎのとおり。

日本本土への初空襲は、1942年4月18日、航空母艦ホーネットから発進した( 1 )中佐指揮の( 2 )爆撃機16機によるものであったが、これはアメリカ国民の戦意高揚が大きな目的であった。この空襲は、開戦初期の勝利感に酔っていた日本軍部に大きな衝撃を与えた。

 これだけを目にすると、「これはひどい」「悪問だ」と感じるかもしれないが、しかし、くだんの大学入試では選択肢が与えられており、そこから推測することは可能である。
 まず、初空襲を指揮した中佐の名前であるが、選択肢にあるなかで、アメリカ人の名前らしきものはつぎの3つしかない。

ハルゼー ドゥリットル マッカーサー

 マッカーサーは、のちにGHQ総司令官となっているので、そのような人物が、中佐という高くはない階級とは考えられない。ハルゼーとドゥリットルが残る。受験というものは、どんな問題でも確実に正解しなければならないわけではなく、ここで2分の1の確率でどちらかを選べばよいだろう。戦史マニアならば、ハルゼーが第3艦隊司令長官だということを知っているだろうが、そこまで知っている受験生は、その分、英語や国語ができないので、気にしなくてよい。
 受験では、すべてを知っていなければならないわけではない。ここで、簡単に説明しておく。60%正解できれば合格できるとする。自分の知識で確実に正解できるのが30%だとすれば、残りの70%の問題を選択し2つにまで絞り込めれば、確率上は、70%の半分である35%が正解となり、合計で65%が正解しているので、合格となる。したがって、完璧に正解がわかる問題が60%以上でなければならないわけではない。

 つぎに、初空襲時の爆撃機の名前であるが、これも選択肢からつぎの3つに絞り込める。

B17 B25 B29

 B29は太平洋戦争の末期に投入された爆撃機である。Bはa bomber(爆撃機)の頭文字だ。29という数字は、正確ではないが、だいたい、開発の順番を示している。ということは、大戦末期に投入されたのがB29だということがわかっていれば、1942年の爆撃に使用されたのはB25あたりではないかと見当がつけられる。たかだか2年くらいのうちに、爆撃機を何機も開発できるはずがないと考えるのが妥当である。実際、正解はB25である。
 もちろん、これを悪問だとする人のなかには、B17だって第2次世界大戦初期に活躍していたと主張するかもしれないが、これは知識の有無を試しているのではなく、常識の範囲内で、妥当な推測ができるかどうか、つまり、地頭(じあたま)がよいかどうかを試している問題であって、むしろ、知識偏重を否定している問題であるといえなくもないのである。むろん、中途半端な戦史マニアは、B25よりもB17のほうが活躍していたからと、誤答してしまうかもしれないが。
 当校(HAL496)には、大手予備校に通いながら、週1日だけ受講している受験生もおり、大手予備校での授業内容を耳にする。実際、対処方法がわからない問題に関して、悪問と騒ぐよりも推測などの対処方法を指導すべきであろう。


2008年12月21日日曜日

かわいいと思っているんですか?

 掃除機496和訳道場や掃除機庵主人日乗l'homme révoltéの自己紹介・プロフィールのところに、子どものときの写真を載せたところ、21日土曜日に、小学3年生の女子生徒に「自分でかわいいと思っているんですか?」と、真面目に質問された。
 思ってねえよ。
 ちょっとくやしいので、かわいい幼少の写真はないかと探してみたが、なかった。

2008年12月20日土曜日

首都圏の国立大学附属高校や自校作成問題の都立高校の対策

 首都圏の国立大学附属高校や自校作成問題の都立高校の対策について述べる。一般に過去問を解いて、傾向をつかみ、対策しましょうなどと言われるが、さほど具体的ではない。簡単だけれども、手っ取り早い対策をひとつ挙げておこう。
 関西などの他地域の国立大学附属高校の過去問をamazonやブックサービス(旧・クロネコブックサービス)などで、できるだけ購入して、ひたすら解く。これである。
 細かいことをいうと、この高校ならば、〇〇教育大学附属高校と××教育大学附属高校の過去問集を解くように指定するのが望ましいし、また、信頼できる塾講師に問題の取捨選択を依頼するのが望ましい。しかしながら、初めから、関西などの国立大学付属高校の2年前・3年前の過去問などを夏休みや9月以降の演習で解かせていない塾・予備校だと、出題傾向や問題分析が充分ではないと考えられるので、あまり信用できない。
 とりわけ関西圏を中心とする地域の国立大学附属高校の過去問を演習するのが有効であるのは、なぜか?
 どんなに難問を出そうとしても、都立高校や国立大学附属高校は、文部科学省の指導要領を逸脱した出題ができない。となると、いわば文科省の「縛り」のなかで難問を出すということになる。すると、同じようなものしか作問できない。さらには、関西以西のほうが、首都圏よりも新作問題を出題する傾向がある。これは、私立中学の受験でも、同様の傾向があり、関西で出題された新作問題が数年後に首都圏でも出題されるということがよくある。
 自校作成問題の特徴としては、現代文の場合、これまでに出題されていない作家・評論家を出したがる場合と、古典と呼んでよいくらいに古い作家・評論家を出題したがる場合とがある。
 近年の例を挙げる。脳科学の茂木健一郎(関係ないけど、彼はHAL496の近所に住んでいて、ジョギングしていたりする)が書く内容は、それまでの高校入試では出題されなかったタイプの内容であった。少なくとも3年前の時点では、既存の問題集を解くだけの中学生には、彼の文章に盛り込まれているアイデアに触れる機会がなかった人が多いはずである。こういう題材を出題することで、塾で叩き込まれた知識だけではなく、地頭のよさ・もって生まれた知能の高い人間を確保しようとするわけだ。ところが、首都圏の高校教師は、やや保守的な部分があるのか、率先して新しい題材を出題しようとしない。「こんな新しい内容のものを高校入試で出題してもいいのか!?」と批判されるのを怖れているのかもしれない。しかし、たとえば、大阪教育大学平野校舎や京都教育大学附属高校で出題されると、「どこそこで出題されているから」と弁解できるので、出題してくる。平成18年2月の入試で都立日比谷高等学校は茂木健一郎の文章を出題したが、じつはそれに先立って、関西以西の国立大学附属高校が茂木健一郎を出題していた。そこで、都立大泉高校くらいにしておいたほうがいいと言うのも聞かずに日比谷を受験する生徒に、茂木健一郎の文章を読ませたところ、見事に出題されていた。これでなんとか滑り込んだかと思ったが、だめだった。出題を的中させるのは得意なのだが、うまくいかない。
 つぎに数学について述べると、指導要領の枠の中で出題しなければならないので、証明問題はもちろん、むやみやたらに「動点」の問題と作図問題がよく出題される。「動点」の問題というのは、点pが1秒につき2センチメートルずつ移動するというやつだ。こうしたタイプの問題に慣れるためにも、あちこちの国立大学附属高校の過去問に当たっておくのが有効な対処法なのである。それに、従来にはない新作問題にも触れられる。

追記:2009年2月10日から20日あたりに検索でこの記事を読んで、地団太を踏んだ人が少なからずいたようだ。もちろん、都立高校の自校作成問題の直接的対策には、すでに述べたように、西日本の国立大学附属高校の過去問を中心に演習するのが適切だが、直前になって、この記事に書いてあることを知った場合、amazon.co.jpや「ブックサービス」(クロネコのヤマト運輸のヤマトホールディングスが運営している)で購入しようにも、入手は難しい。直前の場合には、いわゆる「電話帳」を買って、国立大学附属高校の過去問をピックアップして解くしかない。「電話帳」とは、下に貼りつけたようなものをいう(こんなものをいちいち買ってはいけない。塾で必要なところをコピーすればよい)。▼国公立に限らず、入試問題は「西から流れてくる」といわれており、借用したり、流用したりするのは2、3年前のものが多いので、やはり、「電話帳」よりも、似たレベルの国立大学附属高校の過去問集を、適切に問題の取捨選択を行なって、解くのがより効果的であろう。▼入試日直前の場合は、「電話帳」に掲載されていない国立大学附属高校の過去問もあるが、『全国高校入試問題正解』が数年分、保管してある学習塾で、コピーできるものをコピーして解くしかないだろう。▼それにしても、こうしたことを知らない学習塾って、どんなところなんだろうか?

 

2008年12月19日金曜日

早稲田大学・慶應義塾大学の入試問題の出題者は当該学部本属の教員

 大学受験における出題者について、ちょっとしたためる。

 教員から直接聞いたものやそのほかの伝聞情報によれば、早稲田大学と慶應義塾大学の場合、出題者はその学部本属の教員(教授・准教授・専任講師)に限られる。このことから出題者が予想できてしまう場合がある。

 たとえば、早稲田大学文学部の古文の場合について考えてみよう。万が一にでも出題ミスは避けたいので、自分の専門分野以外からは出題しない。もちろん、専門分野以外から出題しようと思えば、『小学館新編古典文学全集』などを参照しながら、作問することは可能であろう。しかし、最新の学説・解釈などを知らずに出題して、万が一にでも出題ミスをするは怖いので、出題はしないものである。早稲田大学文学部の場合、古文の出題ができる教員は7人くらいしかいないので、たとえば、過去5年分の問題を調べて、この問題の出題者はだれそれであろうと同定できるものを除けば、来年度の出題者となる可能性のあるのは、3人くらいに絞り込める。そうなれば、その教員の専門分野や講義内容を調べて、出題されるとすれば、このあたりというのを見当をつけることができる。ただし、現在の研究分野とはまったく異なる分野から出題してくる場合があるのだが、この場合も、やはり、出題者が充分に勉強・研究していない分野からは出題されないので、当該の教員が大学院生のときの修士論文や大学院生時代の受講した講義内容を調べておけば、より精度が高くなるのだが、これは、個人ではなかなかうまくゆかない。
 以上のようなことをして、どんぴしゃりと出題が当たったとしても、入学後にほぼ確実にオチこぼれるだろうから、まあ、地道にきちんと勉強するということだな(←えらそうなことを書いておいて、オチがそれかよと怒った人がいそうな気がする)。

 出題予想といえば、こういうのがある。『源氏物語』が専門という研究者は、大きな大学ならば、たいていの大学にいる。大学のレベルが低いと『源氏物語』は出題できず、歌物語などを出題するしかない。受験生のレベルが低すぎると、問題として意味をなさないからだ。早稲田くらいになると、源氏物語は、箇所によっては、出題してもかまわない。過去数年(だいたい5年くらい)、『源氏物語』が出題されていなければ、「もう、そろそろ出題されてもおかしくない」と言っておくと、2、3年のうちに出題されることが多い。私からすると、これは「出題を当てた」ことにならないと思うのだが、当てたと言い張っている予備校があったなあ。

 それはともかく、早稲田大学と慶應義塾大学に関しては、その学部本属の教員が入試問題を作成するので、いろいろと調べておくと、得することがあるよ。

2008年12月18日木曜日

挨拶

 ウェブサイトの更新がわずらわしいので、個人的な部分を含むブログを始めることにした。受験勉強に関わることを中心に、いろいろとしたためていこうと考えている。
 まず、ブログのタイトルについてだが、「日乗」とは「日記・記録」のことである。ブログのタイトルに「日乗」を入れている例は少なからずある。「日乗」が入った書籍の題名としては、『断腸亭日乗』が有名。これは小説家・永井荷風の日記だ。大正6年から昭和34年まで記されているので、そのころの東京がどういうふうなものであったかを知るのによい資料である。関東大震災や東京大空襲のことも書かれてある。
 副題のようなものとして、l'homme révoltéとしてあるが、これは「反抗的人間」と一般に訳されるフランス語で、もともとはアルベール=カミュAlbert Camusの著作L'Homme révoltéから採ったものだ。
 アルベール=カミュの作品で最も有名なのは『異邦人』L'Étrangerであり、これは第2次世界大戦後、現在まででフランスで最大の発行部数を誇っている。しかし、フランス人がそれほど『異邦人』が好きというわけではなく、じつのところ、中学や高校の授業で扱ったり、課題図書に指定されたりするからというのが理由である。日本でいえば、毎年8月の文庫本の売り上げが最高である作品が、夏目漱石の『こゝろ』であるのと事情は似ている。
 ハンドルネームを掃除機庵主人としたのは、つぎの理由による。掃除機496和訳道場で、お笑いネタのつもりで、HAL496での指導方法を「掃除機496方式」と名づけてしまったから、その勢いで「掃除機」を使おうと考えた。また、風流な感じがする、ちょっと年寄りくさいハンドルネームにしたかったということもある。そういうことから、掃除機庵主人とした。それ以上は、あまり深くは考えていない。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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