2008年12月22日月曜日

『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(その1)

 2000年に河合塾の丹羽健夫が集英社新書から『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』という新書を出した。
 当時、新聞や週刊誌の書評欄では、日本本土への初空襲の爆撃機の名前や空襲を指揮した中佐の名前などは憶えたくはないなどと、ある大学の入試問題がこてんぱんに叩かれた。その問題はつぎのとおり。

日本本土への初空襲は、1942年4月18日、航空母艦ホーネットから発進した( 1 )中佐指揮の( 2 )爆撃機16機によるものであったが、これはアメリカ国民の戦意高揚が大きな目的であった。この空襲は、開戦初期の勝利感に酔っていた日本軍部に大きな衝撃を与えた。

 これだけを目にすると、「これはひどい」「悪問だ」と感じるかもしれないが、しかし、くだんの大学入試では選択肢が与えられており、そこから推測することは可能である。
 まず、初空襲を指揮した中佐の名前であるが、選択肢にあるなかで、アメリカ人の名前らしきものはつぎの3つしかない。

ハルゼー ドゥリットル マッカーサー

 マッカーサーは、のちにGHQ総司令官となっているので、そのような人物が、中佐という高くはない階級とは考えられない。ハルゼーとドゥリットルが残る。受験というものは、どんな問題でも確実に正解しなければならないわけではなく、ここで2分の1の確率でどちらかを選べばよいだろう。戦史マニアならば、ハルゼーが第3艦隊司令長官だということを知っているだろうが、そこまで知っている受験生は、その分、英語や国語ができないので、気にしなくてよい。
 受験では、すべてを知っていなければならないわけではない。ここで、簡単に説明しておく。60%正解できれば合格できるとする。自分の知識で確実に正解できるのが30%だとすれば、残りの70%の問題を選択し2つにまで絞り込めれば、確率上は、70%の半分である35%が正解となり、合計で65%が正解しているので、合格となる。したがって、完璧に正解がわかる問題が60%以上でなければならないわけではない。

 つぎに、初空襲時の爆撃機の名前であるが、これも選択肢からつぎの3つに絞り込める。

B17 B25 B29

 B29は太平洋戦争の末期に投入された爆撃機である。Bはa bomber(爆撃機)の頭文字だ。29という数字は、正確ではないが、だいたい、開発の順番を示している。ということは、大戦末期に投入されたのがB29だということがわかっていれば、1942年の爆撃に使用されたのはB25あたりではないかと見当がつけられる。たかだか2年くらいのうちに、爆撃機を何機も開発できるはずがないと考えるのが妥当である。実際、正解はB25である。
 もちろん、これを悪問だとする人のなかには、B17だって第2次世界大戦初期に活躍していたと主張するかもしれないが、これは知識の有無を試しているのではなく、常識の範囲内で、妥当な推測ができるかどうか、つまり、地頭(じあたま)がよいかどうかを試している問題であって、むしろ、知識偏重を否定している問題であるといえなくもないのである。むろん、中途半端な戦史マニアは、B25よりもB17のほうが活躍していたからと、誤答してしまうかもしれないが。
 当校(HAL496)には、大手予備校に通いながら、週1日だけ受講している受験生もおり、大手予備校での授業内容を耳にする。実際、対処方法がわからない問題に関して、悪問と騒ぐよりも推測などの対処方法を指導すべきであろう。


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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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