2009年1月18日日曜日

『悪問だらけの大学入試――河合塾から見えること』(その4)

 この本ではまた、つぎの問題を掲げて、「複数解答が出てしまう」と述べている。

The phrase information revolution is often used in the media to describe the (1)radical change in recent society which (A) the widespread diffusion and use of computers in everyday life. (以下略)

設問1. 下線部(1)から(4)の意味として最も適切なものを一つずつ選べ。

(1) a. acute b. fundamental c. progressive d. recent

 これに対して、つぎのようにコメントしている。

設問1 (1) のradicalの意味については a. acuteとb. fundamentalの複数解答が出てしまう。

 acuteも正解だとする感覚が信じられない。
 こうした場合は、訳語から考えるのではなく、用法や用例から考える。そもそも、acuteは、「急性アルコール中毒」の「急性」にあたる語であり、小さな辞書でも、acute pain(げきつう)が掲載されている。acuteを正解の候補とする時点で、入試問題などを除いた英文をふだんから読んでいないと告白しているようなものである。
 しかし、一般の高校生の場合、英文での読書量が少なく、用法・用例からは正解にたどりつけない場合もあるだろう。
 その場合は、「語源」から考える。
 radicalの語源は「root」を意味するラテン語のradixに由来する後期ラテン語のradicalis(を持っている)である。
 acuteは、「鋭くする」の意味のacuereの過去分詞acutusからきている。「」とはなんの関係もない。基本となる訳語は、「鋭い」や「(病気が)急性の」である。
 一方、fundamentalはというと、「基礎base」「底bottom」の意味のラテン語のfundusに由来している。そもそも「本からの」の訳語があり、さらには、「〈和音が〉基本形の」の意味もあり、これは、音(root)を最低音を最低音とすることについていうものである。
 どうして「複数解答が出てしまう」と考えるのか理解に苦しむ。
 こうした問いを設けているのは、辞書を引くときにはふだんから語源などにも目を通しておけという出題者からのメッセージなのであって、単語集を使って、日本語の意味だけを憶えているようでは的確に正解がわかるようにはならないということを告げているのだ。
 西洋由来の学問を勉強すると術語[=専門用語]の解説に際して、頻繁に語源に言及されるということがわかっていれば、なんの苦もなく正解がわかる。どうやら、著者はアカデミックな知識がかけらもないようである。
 自分が簡潔に説明できないからといって、悪問と決めつけるのは困ったことだ。

 河合塾は意図的にこうしたことを煽っているのであろうことはわかる。ビジネスの基本はボリュームゾーンを狙うことである。対象となる顧客を最大にすることだ。偏差値63以上の受験生を対象にすると、上位の10%しか顧客になりえないが、偏差値37から63までの受験生を対象にすると、80%がカバーできる。つまり、この本は、偏差値63以下、あるいは偏差値58以下の受験生が抱きそうな不満を代弁しているにすぎないのかもしれないのだ。
 また、大学入試問題の作成請負を行なうに当たっての宣伝もあったのだろう。実際、委託している大学は少なくないそうだ。
 金儲けの臭いのするものは、やはり信用すべきではない。

 著者は「やはり大学は正解を発表すべきであろう」とも述べているが、そうなると、どうしてそれが正解なのかを理解できない、あるいは公表された正解を、自らの思い込みから間違っていると判断した予備校から問い合わせが殺到するであろう。そうなると、なぜ、それが正解なのかを説明しなければならない。それを説明すると、出題の意図が知られてしまう。
 大学受験で試している能力は、ものごとを理解して憶えていることだけではない。過去問を解く作業を通して、どんな出題傾向なのか、どういう選択肢が正解となることが多いのか、そういった「規則を見出す」能力も試している。そう考えないと、出題者がいくら変わっても、あれほど出題傾向を維持しているのを、偶然と考えるには無理がある。正解を公表して、正解の根拠を示すと、手の内がばれてしまう。「規則を見出す」能力の持ち主が有利にならなくなる。そうなると、暗記に長けた者ばかりが合格することになる。これは大学にとって避けたい事態であろう。

 著者はまた、悪問を出題する大学の代表例として早稲田大学を槍玉に挙げている。すでに述べたことだが、「捨て問」はあっても、それほど悪問はない。
 資料を探す時間がないので、具体例は挙げないが、以前、つぎのような出題が早稲田大学法学部であった。
 下線を施した単語の意味を訊ねる設問だが、駿台予備学校のハイレベル模試でコンスタントに偏差値75以上がとれる受験生でもさっぱりわからないはずの単語だった。しかし、その年度のその設問だけを見て「悪問だ」と騒いではいけない。
 その単語は、3年前の入学試験の長文の中に登場していた。その年度では設問に関わりがなく、知らなくても問題は解けるようになっていた。
 3年後に、その単語が出題されたのであるが、早稲田らしい意地の悪い出し方をしていた。3年前の長文で使っていたのとは違う意味でその単語を使っていたのである。正確に述べると、別の意味というよりは、同じ綴りだけれども、辞書では別の見出し語となっているほうの意味で出題していた。
 これはどういうことか?
 3年前の過去問の長文を自力で辞書を引きながら、考えつつ訳した受験生だけが正解できる設問ということである。他大学が第1志望の受験生は、第1志望でない大学・学部の問題を丁寧に自力で訳してみたりはしないだろう。また、単なる滑り止めの場合だと、3年分も解かないことが多い。
 つまり、第1志望にしており、丹念に辞書を使って自力で訳したことのある者だけが、得点できる設問だったのである。
 以上のように、時系列を踏まえれば、悪問でもなんでもない問題だったのである。悪問と騒ぐ前に、対処方法を伝えるべきであろう。

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和歌山県橋本市出身。世界文化遺産である高野山の麓です。
和歌山県立橋本高等学校を経て、早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業。
B型Rh+。天秤座。家紋は「丸に九枚笹」。
大叔父(おおおじ)は精鋭集団である帝国陸軍航空審査部所属で、「キ61(きろくいち)の神様」と呼ばれた坂井雅夫少尉。キ61は三式戦闘機「飛燕(ひえん)」のことである。

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