旧司法試験の頃の話である。旧司法試験は2011年まで行なわれていた。
さて、予備校や進学塾の非常勤講師には、司法試験浪人が少なからずいた。ちなみに、生徒の成績を上げるのが上手い非常勤講師は、だいたい、2年以内に合格していたものである。一方、何年も司法試験浪人を続ける非常勤講師の担当クラスは、驚異的な成績の上昇はなかった。
旧司法試験では、大学の一般教養を終えていれば第1次試験(一般教養の試験)が免除される。第2次試験では、短答式試験・論文式試験・口述試験がある。
早稲田大学社会科学部出身の非常勤講師がいた。彼は短答式試験を5回、不合格になっていた。同じ大学の後輩ということから、「短答式試験なんかは、国語力だけで合格できるんじゃないの?」と言ってみた。
「国語力で解けるのは、憲法の問題だけです」
そう答えた彼は、数日後、学説史の問題を持ってきて、解いてみてくれという。彼は国語力だけでは解けない問題を吟味(ぎんみ)して、その学説史の問題を持ってきたのだった。
司法試験の問題を初めて目にした。記憶が定かではないけれども、そこそこに長い文章に、8箇所(かしょ)だか、10箇所だかくらい空所がある。その空所すべてを正解して、1問正解となるという。
解いてみた。
途中で2箇所、どうしても国語力だけでは正解に到(いた)らないものがあった。
そこで、この学説史の問題が、ドイツの法律の理論に基づくものだと仮定してみることにした。一か八(いちかばち)かの賭(か)けに出たのである。このことは彼には黙っておいた。
すると、批判哲学のイマヌエル=カントImmanuel Kantからゲオルク=ヴィルヘルム=フリードリヒ=ヘーゲルGeorg Wilhelm Friedrich Hegelの哲学へという流れに沿って、学説史もその流れとなると仮定すると、パズルのピースがうまく嵌(は)まった。
全問正解だった。
社会科学部出身の彼は、解答を見つめながら、こう訊(き)いた。「掃除機先生は、子どもの頃に、知能指数検査をした翌日から教師の態度が変わったという経験はありますか?」
「えっ、なんでわかるんですか?」
「でも、この問題には3分30秒しか時間が割(さ)けないのですが、今、5分30秒かかっていましたから、掃除機先生は合格できません」
「あのぉ、一般教養も含めて、今まで法律を勉強したことないんですけど」
そして、彼は行方不明(ゆくえふめい)になった。つぎの授業のときに予備校にやって来なかった。経営者が下宿に電話しても連絡がつかなかった。また、親元に連絡しても、行方(ゆくえ)はわからなかった。
当時の早稲田大学社会科学部の入試は暗記重視の問題ばかりだった。その学部出身ということは、彼は「勉強とは暗記である」と思っていた可能性が高い。
ところが、法律の知識をなにも暗記していない者が目の前で学説史の問題を解いてしまった。たぶん、世界が崩壊(ほうかい)するような思いを経験したのだろう。
ただ、よくわからないのは、私がどういう思考回路によって正解したのかを、何故(なぜ)、彼は訊(たず)ねなかったのかということである。解き方のすべてを習得できなくとも、半分以上は簡単に習得できるものなんだけどね。もちろん、そうした解き方を編み出すのはきわめて困難なことではあるが。
こういうことができるから、うちの塾の生徒の成績が、謂(い)わば「異常値」というくらいに上昇するのだが、信じてもらえない。
ところで、早稲田大学社会科学部の入試問題は、あるときを境(さかい)に、暗記重視の問題から思考力重視の問題に転換(てんかん)した。学生の質は、中年以上の人がイメージしているものではなくなっているようだ。30年前とは較べものにならないくらいに、地頭(じあたま)がよくなっている。暗記バカではなくなっている。けれども、30年前のイメージで判断しそうな人事部はありそうだから、あまりお得(とく)ではないようだ。
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自己紹介
- 掃除機庵主人
- 和歌山県, Japan
- 早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。
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