ウィキペディアの記事を見ると、日本語の場合、画面の右下に「他の言語」という項目がある。真面目に調べものをしているときは、私は基本的に英語を読むが、日本語のほかにもフランス語・ドイツ語にも目を通す。ときには、イタリア語・スペイン語などもチェックすることもある。このことからわかるように、私はアラビア語やペルシャ語やインドネシア語やタイ語や韓国語などはまったくの苦手である。
知名度の高いものは、複数の言語でウィキペディアに記事が載っている。
そこで、どのくらい多くの言語で記事が掲載されているかで、世界的なレベルでの知名度の指標になるのではないかと考えた。
日本人ヴァイオリニストで複数の言語で記事があれば、日本国外でも知名度が高いといえる。ただし、日本語と英語だけの場合、日本は、事実上、アメリカ合衆国の文化的属国状態にあるので(留学する人間の9割以上の留学先がアメリカ合衆国というのは独立国ならば考えられない数字である)、日本語・英語のみのヴァイオリニストはここでのランキングからは外した。日本語だと顕著なのだが、英語にも、どうやら、本人による自作というか、本人あるいはその関係者が書いたらしい記事が見受けられたからである。
ということで、ランキング(2009年2月23日)。
7位 2言語(日本語・英語の組み合わせは除く)
寺神戸亮(てらかどりょう)
日本語・ドイツ語
小野明子(おのあきこ)
日本語・ロシア語
4位 3言語
川井郁子(かわいいくこ)
日本語・英語・フィンランド語
五嶋龍(ごとうりゅう)
日本語・英語・ドイツ語
諏訪内晶子(すわないあきこ)
日本語・英語・スウェーデン語
3位 4言語
西崎崇子(にしざきたかこ)
日本語・英語・スウェーデン語・中国語
西崎崇子って誰? と思う人がいるかもしれない。この人は、ヴァイオリニストとしてというよりは、ナクソスNAXOSというクラシック系音楽レーベルを、ドイツ人の夫とともに創設した人物としての扱いが大きいようだ。同時に、会社の営業戦略の一環としてウィキペディアに記事を載せている可能性もなくない。
2位 8言語
五嶋みどり(ごとうみどり)
日本語・英語・ドイツ語・オランダ語・フィンランド語・ポルトガル語・ロシア語・ベトナム語
五嶋みどりが1位じゃないことに驚いた人も多いだろう。では、だれが1位なのだろうか?
1位 9言語
鈴木鎭一(すずきしんいち、鎮一とも書く)
日本語・英語・ドイツ語・オランダ語・デンマーク語・スウェーデン語・フランス語・スペイン語・エスペラント語
誰だ、このおっさんと思った人へ。ほら、姓が「スズキ」なんだから、わかるでしょ?
ヴァイオリンを主とする指導理論であるスズキ=メソードSuzuki Methodの創始者である。ヒラリー=ハーンHilary Hahnはスズキ=メソードでヴァイオリンを学んだそうだ。
並んでいる言語が、人工語のエスペラント語を除けば、それもこれも先進国ばかりというのが、奇妙な感じがする。
どういう指導方法なのかは知らないままなのだけれども、「メソード」という読みだけで胡散(うさん)くさいと感じてしまう。英語のmethodならば、/meˈθəd/なんだから、日本人の耳には「メッソド」くらいに聞こえるはず(決して「メソッド」ではない)。フランス語のméthode /metɔd/ ならば、「メトド」か、「メトード」か、その中間くらい。ドイツ語のMethode /metoˈdə/ だと「メトーデ」くらいになるだろう。よっぽど変な方言を耳にしたのかなあ。
音楽ができるには音感は必要だ。音感があれば、外国語の発音は滑(なめ)らかに習得できる。だから、「外国語の発音は悪いが、音楽家としては優秀である」というような音楽家はいないはず。これまでの経験で、外国語の発音がおかしいなと思ったミュージシャンで、優れているとは思った人はいなかった。
音楽の指導理論提唱者とレコード会社の営業とを除けば、3言語以上に記事のあるヴァイオリニストが、五嶋みどり・五嶋龍・諏訪内晶子・川井郁子の4人しかいないというのは、日本の音楽界を象徴しているようだ。また、掲載言語数が最も多い日本人ヴァイオリニストが、指導理論提唱者というのも、象徴的な感じがする。
それにしても、庄司紗矢香の項目が日本語・英語の2言語しかないのはどうしてなんだろう?
ちなみに外国のヴァイオリニストは、こんな具合だった。
イツァーク=パールマン Itzhak Perlman
24言語
ヤッシャ=ハイフェッツ Jascha Heifetz
23言語
ヴァイオリニストとは関係なしに、日本人で掲載言語数が最も多い日本人は誰かと思って、適当に調べてみた。
昭和天皇
69言語
昭和天皇を上回る日本人は、いないんじゃないかな。
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