2009年2月15日日曜日

経済学者のケインズは若い頃に「確率原理」という論文で、確率は直観的な概念なので定義を必要としないとした。

 ジョン=メイナード=ケインズJohn Meynard Keinesは、イングランドの経済学者である。有効需要に基づいてマクロ経済学を確立した。主著は『雇用・利子および貨幣の一般理論』The General Theory of Employment, Interests, and Money
 彼は、ケンブリッジ大学キングズ=コレッジKing's College, Cambridge Universityの数理学部に入学した。なお、イギリス英語ではcollegeは「コレッジ」と発音する。1905年に学士を得て、1908年に修士号を取得。修士号の際、1907年に提出した論文が「確率原理」'The Principles of probability'であった(ちなみに、論文のタイトルはイギリス英語では一重引用符single quatation marks('...')でくくる)。さらには、1921年に『確率論』A Treatise on Probabilitiesを刊行している。もっとも、ケインズの確率論は、現代数学の確率論ではなく、当人自身も哲学的なものと考えていたらしい。

 さて、「確率原理」でケインズは確率の概念を定義しなければならないのであるが、おどろくべき方法で処理しているぞ。

確率」という概念は直観的なものなので、定義を必要としない。

 こんなのありかよと思いつつ、ケインズは確率や期待値を周囲の人々に納得させる説明が思いつかなかったか、あるいは、数理感覚の乏しい人しか周囲にいなかったのかもしれない。実際、期待値の概念がさっぱりわからないという怒涛の文系タイプっているものな。たとえば、1枚100円の宝くじの期待値は40円で、競馬の馬券(正式名称は「勝ち馬投票券」だったっけ?)の100円あたりの期待値は80円なので、数学的には競馬のほうが得なのに、宝くじを買う人が多いのは数学的に不思議であると言っても笑わない生徒がいる。本当は、どちらにしても損するようにできているのだけど。
 日本語だけで読むとアクロバティックに思えることをケインズが言ったのは、ジョージ=エドワード=ムーアGeorge Edward Mooreというケンブリッジ大学教授の著書に影響を受けてのものである。

 ムーアは1903年に『倫理学原理』Principia Ethicaを著(あらわ)した。この著書で、倫理学、つまり道徳を論ずるにあたり、まず、「善とは何か」を定義しようとする。そこでムーアが行なったことは、「善い」goodということばの用例を集めて、それらの用例に共通するものが「善」の本質であろうとみなすつもりであったが、ところが、用例すべてに共通する性質がなかった。
 そこで、ムーアはつぎのように結論づけた。

」とは直観的な概念なので、定義を必要としない。

 直観主義倫理学の始まりだ。

 ムーアのこのやり方を知ったケインズは、確率の概念に適用したのである。

 日本語でしか考えないと、いったい、どこが「直観的」なのかと思うかもしれない。しかし、確率はprobabilityであり、これはprobable(起こりそうな、ありそうな)という形容詞やprobably(たぶん)という副詞の名詞形である。英語を話す人には、probableやprobablyから、なんとなく「直観的に」わかる。だからこそ、ケインズは「確率原理」という論文で学位を取得し、チューターの地位についている。チューターっていうのは、1人またはごく少数の学部生を対象とする補助教員のようなものである。
 ケインズの確率の定義づけはつぎのように書き換えることができる(かもしれない)。

 probabilityは、probable(起こりそうな、ありそうな)やprobably(たぶん)などの語の使い方からなんとなくわかるので、なんとなくそのまま使ってもかまわない。

 ケインズによる確率の概念の定義づけは、日本語だけで読むと「はぁ?」となるものが、英語で考えると「ふーん」となる例である。
 probabilityは、また、「蓋然性(がいぜんせい)」とも訳すが、漢籍の素養がなければ、字面(じづら)からはなんのことか推測すらできないな。

  

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早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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