以下に、歌詞を掲載しておこう。
「442部隊のうた」
アメリカ陸軍最強の誉れ高き442
敵と差別に打ち勝って日系男児の誇らしさ
最前線に身を挺し難攻不落を攻め落とし
燦然輝くPurple Heart大和魂語り継がん
Banzai Chargeの突撃で紅染まる星条旗
死して還らぬ魂は見ざる故国の御霊なり
将軍閲兵の残りし兵の少なきに寂として声なし
サヨナラは誰のため この生命誰のため もっともっと 撃ちてし止まん
その涙何のため この痛み何のため いつかいつか 散りて華にならん
海行かば水漬く屍 山行かば草生す屍
註
442:第442連隊戦闘団のこと。the 442nd Regimental Combat Team。442の読み方は、four forty-twoあるいはfour forty-secondと読む人が多いが、正式には、four hundred and forty-secondである。今のところ、正式な名称で読んだ人は記憶にない。ま、日本語でも、「よんひゃくよんじゅうに」とは読まずに、「よんよんに」と読む人が多数派だからな。
敵と差別に打ち勝って:第442連隊戦闘団は、アメリカの歴史上、唯一、大統領が出迎えた部隊であり、最多受賞となる7枚目の大統領部隊感状を大統領自身が括(くく)りつけた唯一の部隊である。そのとき、トルーマン大統領は、You fought not only the enemy but you fought prejudice! And you won!(諸君は敵とだけ闘ったのではなく、偏見とも闘った! そして諸君は勝ったのだ!)と述べたことに由来する。
Purple Heart:パープルハート章。名誉負傷章、名誉戦傷章、名誉戦死傷章とも訳される。戦役での死傷者に贈られる。また、第442連隊戦闘団は、314%という延べ死傷率の高さからPurple Heart Battalion(名誉戦傷戦闘団)という愛称をつけられている。延べ死傷率314%というのは、負傷してから傷が癒えたら再び戦線に戻り、またもや負傷し、戦線に戻りというのを繰り返した兵士が多数いたということである。
Banzai Charge:「バンザイ突撃」のこと。第442連隊戦闘団はBanzai Attackとは言わず、Banzai Chargeを用いる。第442連隊戦闘団にあっては、鬨(とき)の声として、「バンザイ」のみならず、「馬鹿野郎」やピジン英語で「死ね」を意味する「マケ」(負けに由来(ゆらい)か?)が用いられた。フランスのBruyère(ブリュイエール、英語読みだとブリエラ)解放の戦闘で、バンザイ突撃を繰り返したため、Banzai Hills(バンザイ=ヒルズ)と名づけられた丘が存在する。
将軍……:ここでの「将軍」とは、Lost Battalion(失われた大隊)であるテキサス大隊を救出するために第442連隊戦闘団を投入したGeneral Dahlquist(ダールキスト将軍)のこと。「失われた大隊」とは、ドイツ軍に完全に包囲され、外部からの補給のなくなった状態の大隊を意味する。第442連隊戦闘団は211名を救出するために800以上の死傷者を出した。私の記憶によれば、歩兵だけでドイツ第3帝国軍の戦車隊と闘ったりもした。ある資料によれば、K company(K中隊)は186名いたが、死傷しなかったのは17名(18名という説もある)にすぎず、I company(I中隊)は185名中、8名しか残らなかった。ダールキストは閲兵式を行おうとしたが、整列した兵士の数が極端に少なく、機嫌が悪くなった。
- I want all your men to stand for this formation.(君の配下の兵を全員、この閲兵式に整列することを望んでいる→全員を整列させろと言ったではないか)
とダールキストは言った。
- That's all of the K company left, sir.(閣下、これが、残されたK中隊のすべてです→閣下、これで全員です)
と、ミラー中佐は答えた。
残りは、戦死したか、負傷で入院中かのどちらかであった。絶句したダールキストは演説をしないまま、引き上げた。「寂(せき)として声なし」はこのことを指している。なお、寂を「じゃく」と読むのは呉音で、漢音では「せき」である。
失われた大隊救出の悲劇を知ったアメリカ合衆国国民の非難により、ダールキストは失脚(しっきゃく)した。
撃ちてし止まん:第442連隊戦闘団のmotto(標語)はGo for Broke!の訳のひとつ。「撃ちてし止まむ」が古語としての表記。『古事記』にある神武天皇「東征」にある歌の一節。1943年(昭和18年、皇紀2603年)、陸軍省が戦意高揚のために作成したポスターに用いられた標語でもある。ちなみに、同年の標語に、「頑張れ! 敵も必死だ」もある。Go for Broke!は、賭博(とばく)における慣用表現で、「一文無しに向かって進め」「破産状態に向かって進め」くらいの意味で、「有り金をすべて賭けろ」ということである。ここでのbrokeをto breakの過去形だと考える人がいるが、古英語にある過去分詞形(のひとつ)であり、現代英語では非標準の過去分詞である。現代英語では叙述用法でのみ用いられる形容詞で、「文無しの、無一文の、破産した」の意味。Go for Broke!は一般には「当たって砕けろ!」と訳されるが、「死力を尽くせ!」とも訳される。なお、to go brokeは「破産する」というごく普通のイディオムである。
散りて華にならん:戦死の婉曲(えんきょく)表現として、「散華(さんげ)」が用いられたのだが、おそらく、それを踏まえての表現であろう。もっとも、散華は、「華を散らす」であって、「散りて華にならん」という意味ではない。歌詞というものは、メロディ=ラインに合わせなければならないから、こういうこともあるのだろう。
海行かば……:「海行かば」は、嘗(かつ)て準国歌であった。大東亜戦争では、出征兵を送る際に唄われた。
海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね)/山行かば 草生(くさむ)す屍/大君(おおきみ)の辺(へ)こそ 死なめ/かへり見(み)は せじ
最後ではは「かへり見はせじ」のほかに、「長閑(のぞ)には 死なじ」とするの2つのバージョンがある。古歌に基づくならば「かへり見はせじ」が正式となるはずである。
訳:海を行けば、水に漬かった屍となり、山を行けば、草の生す屍となって、大君(おおきみ)のお足元にこそ死のう。後ろを振り返ることはしない。
以上、註は終わり
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ひとつ気になるのは、彼らは嘗(かつ)ての日本人の特質を体現しているが、当人たちは、あくまでも自分の祖国はアメリカであると思っており、また、Japanese American(日系アメリカ人)と呼ばれることは好まず、Asian American(アジア系アメリカ人)と呼ばれることを好んでいる人が多いということである。
もっとも、アジア系アメリカ人と呼んでもらいたいと思うのは、日系アメリカ人とすると、それ以外のアジア系に対して偉そうにしていることになるのを懸念(けねん)してのものであろう。
ところが、そうした点がまさに日本的なのである。
歌については、たとえば、つぎの部分は起承転結にしたがっている。
起:サヨナラは誰のため
承:この生命誰のため
転:もっともっと
結:撃ちてし止まん
起:その涙何のため
承:この痛み何のため
転:いつかいつか
結:散りて華にならん
ほら、綺麗な起承転結になっているでしょ。この歌全体も、おおよそ起承転結にしたがっている。つまり、入れ子細工(いれこざいく)のような2重構造になっている。美しい形式だ。
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