中学生のときに、1学年の下に、周囲から「チョン」と呼ばれている後輩がいた。
別の後輩たちが彼のことを親しげに「チョン」と呼んでいたので、「ちょっとまずいかもしれへんから訊(き)くんやけど、なんで、チョンって呼んどるん?」と訊(き)いてみた。
ほかの後輩たちの答えは、それが本当なのかどうかは判然とはしなかったが、みんながそう呼んでいるから、というものであった。
さて、チョンと呼ばれていた少年は、実際のところ、日本国籍ではないが、所謂(いわゆる)、通名(つうめい)というか、日本人名というか、そういうものを形式的には名乗っていた。もしかすると、彼の本名の原語読みがチョンだったのかもしれないが、わからない。
後輩たちを見ていると、チョンと呼んでいるからといっても、仲違(なかたが)いや差別心があるわけでもないようで、じつに仲よしだった。
「おーい、チョーン!」
「おう、〇〇! なんやぁ!」
そんな感じだった。
そんなふうに呼ばれている後輩は、すこぶる大柄(おおがら)で、中学2年生の時点で180センチメートル近くはあったと記憶している。そして、体格のよい人間によく見られるように、おおらかな性格だった。
それにしても、仲よしなのに、チョンと呼んでいるという光景は、当時でも、ちょっと不思議な感じがしていた。けれども、そう呼ぶのを禁ずるのもなあ、と思っていた。多少なりとも心理学の書籍を読んだ今では、仲よくしているにもかかわらず、そんなふうに呼ぶのを断固として禁ずる場合、ある特定の国籍の者に対する差別・偏見がある者であるということになるようなので、禁ずることをしなかった自分は、そういった差別・偏見がないという傍証(ぼうしょう)になるのではないかと考えている。
でも、やっぱり、不思議な光景だったなあ。
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