雁狩(がんが)りが行なわれていたころの話だ。残雪と名づけられた雁の棟梁(とうりょう)が登場すると、さっぱり雁が捕れなくなった。大造じいさんは残雪を捕らえようと、智慧をめぐらせるが、いずれも失敗する。智慧(ちえ)較べで、雁に負けるとは、大造は大丈夫か? 2年前に生け捕った雁を囮(おとり)にして雁の群れをおびき寄せ、猟銃で撃とうとするが、そこへ隼(はやぶさ)が雁の群れに襲いかかる。大造じいさんになついていた雁が逃げ遅れる。残雪は仲間を助けようと、隼に闘いを挑む。
「大造じいさんと雁」は昭和16年「少年倶楽部」11月号に発表された作品である。60年以上も前だ。日中戦争(支那事変)真っ盛りで、真珠湾攻撃の数か月前に発表された作品だ。
我が身を省みずに、仲間を救おうとするというストーリーには、戦意高揚(せんいこうよう)の匂いがする。こうした点から、この作品を読み解くというのはどうだろうか?
椋鳩十は考えもしなかったのだろうけど、1941年12月にフライイング=タイガーズ(Flying Tigers 飛虎隊)というアメリカ合衆国義勇軍が投入され、加藤隼戦闘隊と死闘を繰り広げている。
「大造じいさんと雁」 日中戦争
残雪 加藤隼戦闘隊
隼 フライイング=タイガーズ(アメリカ合衆国義勇軍)
雁の棟梁の残雪が現実では加藤隼戦闘隊に相当するところが興味深い。
で、大造じいさんの年齢についてである。
小学校の教科書のよっては、前書きの部分が書き改めてあることがあるのだけれど、もとの文章では、大造じいさんは72歳で、残雪との闘いは35、6年前のことだという設定になっている。とすれば、大造じいさんが残雪と関わっていたのは、36歳あたりのことになる。
これでは、もはや、「じいさん」とは呼べない。「大造にいさん」じゃないかと、以前から考えていた。「大造じいさんと雁(がん)」を読んで、60歳から70歳あたりのじいさんをイメージするのは、誤りであると考えていた。
実際、挿絵(さしえ)には、60歳以上の老年には見えないものが多い。
やはり、36歳程度の設定なのであろう。
しかし、気にかかることがある。物語の中で、終始、「大造じいさん」と呼んでいる点である。それだけではない。単に「じいさん」としているところが、18箇所もある。「若き日の大造じいさん」のつもりなのだろうが、かなりの小学生は、本当に「じいさん」だと思ってしまう。
そんなことを思っていたのであるが、新しい意見があった。大造じいさんの話を元に、作者の椋鳩十が、新たに、作り直したものだと考えるものである。
「わたしは、その折(おり)の話を土台として、この物語を書いてみました」
と、前書きにある。実際の話は、あくまでも土台なのであるから、「大造じいさんと雁」で、残雪と闘う大造じいさんは、老人でもよいとする考えである。
自分は、ずっと、大造さんが35歳前後のときの話だと思っていたんだがな。ま、椋鳩十自身、あまり、細かいことは考えないで執筆したのだろうけど。
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