この文章では、現代仮名遣いは緑色で、正仮名遣い(旧仮名遣い)は青で表記する。
「澪標(みをつくし)」は、『源氏物語』の巻名にひとつでもあるが、同時に、小倉百人一首に登場する元良親王(もとよししんわう)の和歌に登場することでも有名である。
わびぬれば 今はたおなじ 難波なる
みをつくしても あはむとぞ思う
「みをつくし」は「澪標」と「身を尽くし」とを掛けている。
「澪標(みをつくし)」の「澪(みを)」は、川や海で、底が溝のように深くなった部分のことで、船の水路となるもの。「澪標(みをつくし)」の「つ」は現代語の「の」に相当し、「澪つ串」つまり「澪の串」の意味で、川や海で、水路に杭(くい)を並べて、船が往来する際の目印とするもののことである。
「身を尽くし」とは、「命を捨ててでも」くらいの意味。
さて、NHKの『澪つくし』は「みおつくし」と読んでいた記憶している。元良親王の和歌からだったと思うのだけど、「澪」が気になって、たしか、『大言海』という4分冊の国語辞典で調べたと思うのだが、そこでは「澪」の読みが「みよ」となっていた。
はっきりしないのだけど、古語で「みを」「みをつくし」だったのが、明治・大正ならびに昭和初期には、それぞれ、「みよ」「みおつくし」と分化したという可能性を考えた。それをおもしろい現象だと思っていたのだが、今では、手許の辞書ではどれもこれも「澪」は「みお」となっている。
澪(みよ)
澪釣(みよづり)
澪杭(みよぐい)
「みお」は、ちょっと気を抜くと「みよ」に近い音で発音してしまいがちである。これは、「マリア」を「マリヤ」と発音するのと似ているのだろう。
もしかすると明治から昭和初期には「みお」「みよ」の両方の読みがあったのが、「みお」に収斂(しゅうれん)したのかもしれない。もし、そうだとすれば、NHKの『澪つくし』の影響がすこぶる大きいのだろうな。
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