2009年3月15日日曜日

『ベルリン・天使の詩』を5人の女の子と、それぞれふたりで劇場で観たんだが、6人目で……

 『ベルリン・天使の詩』(1987年)は、ヴィム=ヴェンダースWim Wenders監督の作品である。日本語のタイトルは『ベルリン・天使の詩』だが、ドイツ語のタイトルはDer Himmel über Berlinであり、「ベルリンの空」という意味であり、同時に、「ベルリン上空の天国」という意味でもある。直訳的に英語にすると、The Sky over Berlinであり、同時にThe Heaven over Berlinでもある。英訳の題名はWings of Desireで、フランス語の題名はLes Ailes du désirで、どちらも「欲望の翼」という意味である。ほかの言語は、おおむね「ベルリンの空」の意味だ。たとえば、イタリア語の題名なら、Il Cielo sopra Berlinoである。
 ニコラス=ケージNicolas Cageとメグ=ライアンMeg Ryan主演の『シティ=オブ=エンジェル』City of Angels (1998年)は、この作品のリメイク。



 東西冷戦下のベルリンが舞台の映画だ。人類が登場する以前からベルリンを見守る天使ダミエルDamielは、サーカスで空中ブランコに乗るマリオンMarionに一目惚(ひとめぼ)れをする。やがて、永遠の命を捨て、人間になることを決意する。
 『刑事コロンボ』で有名な俳優ピーター=フォークPeter Falkが「ピーター=フォーク」役で登場する。ピーター=フォーク自身、かつては天使であったが、観察するばかりで、なにも直(じか)に経験しないことに倦(う)み、永遠の生命を捨て、人間になっていたのだった。
 ダミエルは人間になる。それまでモノクロだった画面が、ダミエルが人間になると、ふいにカラーに切り替わる。天使から人間へと「生命」を体験する。血を流し、初めて色彩に触れ、食べ物を味わい、コーヒーを飲む。掌(てのひら)を擦(こす)りあわせると温かくなることに、新鮮な驚きを感じる。
 そして、ダミエルはバーでマリオンと遭遇する。



 フランス語訛りが少しはいったドイツ語のせいで、ちょっと不思議な台詞まわしとドイツ人は感じるらしい。

 この映画が公開された当時、しばらくして、知り合いの女の子に一緒に観に行かないかと誘われた。
 「この間、『ベルリン・天使の詩』って映画、観たんだけど、もう1度観ようと思ってて、掃除機くんも一緒に観に行かない?」
 時間的な余裕があったので、一緒に観に行った。
 記憶では、渋谷の単館上映で、1年くらいのロングランだった。

 それから、しばらくすると、別の女の子に『ベルリン・天使の詩』を観に行こうと誘われた。もう1度観てもいいかなと思ったので、一緒に出かけた。

 2か月くらいすると、また、別の女の子に誘われた。
 「掃除機くんなら、きっと気に入るよ」と、すでに1度見ている彼女は言った。
 3回観るのも悪くはないかなと思った。

 すると、また、別の女の子に誘われた。この彼女も、すでに観ているが、もう1度観たいと思ったのと、この人なら、きっと気に入るだろうと考えて、誘ってきたのだった。
 断るべき強い理由もないので、出かけた。

 しばらくしたら、またもや、別の女の子に誘われた。

 そんなわけで、『ベルリン・天使の詩』を劇場で5回も観たわけだが、よくよく考えてみると、これまで劇場で2回観た映画すらないのに、どうして、5回も観てしまったのだろう? 映画そのものがよかったということもあるし、わざわざ誘ってくれたんだから、よほどの理由でもないかぎりは、断らなかっただけというのが真相だろう。

 ところが、1年くらい上映していた『ベルリン・天使の詩』も、まもなく、上映終了になるということで、これまた、別の女の子からお誘いがあった。自分と同じ、哲学科の女子学生だった。
 5回も観ていて、さすがに飽きてきたところだったので、だれそれと初めて観て、2回目にだれそれと観て、3回目にだれそれと観て、4回目にだれそれと観て、5回目にだれそれと観たから、もう見飽きたので……と言った。
 「掃除機くんは、断るってことを知らないの?」と言ってきた。
 確かに、時間的・経済的に余裕がある場合には、断った経験がない。わざわざ誘ってくれたのだから、よほどの理由がないかぎり断ることはない。しかし、今回はちがう。
 だから、見飽きたから、今、断ってるじゃん、と心の中でつぶやいたが、ことばにすると、なにか、おそろしい事態に陥りそうなので、言わないでいた。
 ちょっと機嫌が悪いようだったので、「あの、その……、3か月以上前だったら、ぜひとも一緒に観たかった映画なんだが……」と言ってみた。

 『ベルリン・天使の詩』は単館上映としては、観客動員がよかったのだろう。どのくらい経ってからだったかは思い出せないのだけど、それほど経っていたわけではないと思うのだが、ヴィム=ヴェンダースの昔の映画がリバイバル上映された。『都会のアリス』Alice in den Städten(1974年)だ。英語だとAlice in the Citiesというタイトルだ。
 ジャーナリストの主人公が、ある女性に依頼されて、その子どもを祖母のところに届けるといういわゆるロードムービーに分類される映画だ。
 6番目の女の子から、『都会のアリス』を観に行かないかとお誘いがあった。
 「よろこんで」とぼくは答えた。
 映画の台詞(せりふ)に、哲学者のハイデガーやキルケゴールなどの著書から借用したらしいものが多く、個人的には、『ベルリン・天使の詩』よりもおもしろかった。でも、普通の人には『ベルリン・天使の詩』のほうが楽しめると思う。

 ところで、6番目の女の子から、後日、手紙をもらった。
 なんかの雑誌で、アメリカの小説家ピート=ハミルPete Hamillがノーベル賞作家のガルシア=マルケスGabriel Jose Galcia Marquezにインタビューした記事が載っていたという。
 そこで、マルケスは、小説を書く動機について訊かれ、こんなふうなことを答えたそうだ。曖昧な記憶でしたためる。

 「私はだれかに愛されたくて、小説を書いている。賞賛はいらない。ただ、愛されたいだけだ」

 彼女は続けて、こんなことを書いていた。

 私もきっと、だれかに愛されたくて、哲学を勉強したのだと思います。
 夜更けのアスファルトを、ハイヒールでコツコツ、音を立てながら歩くのが好きです。

 そのとき以来、ずっと疑問に思っているのだけれど、この人は、いったい、だれのことが好きだったんだろうか? まったく見当がつかなかった。大学卒業後、1年か2年くらいしたら、この人の高校時代の同級生で、東京大学工学部出身の男性と、この人が結婚したから、わからないままだ。相手の人は、「哲学的な工学部出身者」なのかもしれない。

 

ドイツ哲学の書籍をドイツ語で一定以上に読んでいるなら、『都会のアリス』がお薦め。

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和歌山県橋本市出身。世界文化遺産である高野山の麓です。
和歌山県立橋本高等学校を経て、早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業。
B型Rh+。天秤座。家紋は「丸に九枚笹」。
大叔父(おおおじ)は精鋭集団である帝国陸軍航空審査部所属で、「キ61(きろくいち)の神様」と呼ばれた坂井雅夫少尉。キ61は三式戦闘機「飛燕(ひえん)」のことである。

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