2009年3月8日日曜日

早稲田大学で第2外国語の選択で、第2希望としてであってもロシア語を選択すると、もれなくロシア語選択者にされてしまう。

 ほかの学部ではどうなのかは知らないが、少なくとも文学部と理工学部とでは、第2外国語の登録に際して、第1希望と第2希望を記入する欄がある。2つ書く欄があると、事情を知らない者は、2つ書き込まなければならないと思ってしまうものだろう。ところが、これが罠(わな)なのである。

 第1希望と第2希望の組み合わせごとに考えてみよう。

第1希望・第2希望の順で表記する。
ドイツ語・フランス語→ドイツ語に決定
ドイツ語・中国語→ドイツ語に決定
ドイツ語・ロシア語→ロシア語に決定
フランス語・ドイツ語→フランス語に決定
フランス語・中国語→フランス語に決定
フランス語・ロシア語→ロシア語に決定
中国語・ドイツ語→中国語に決定
中国語・フランス語→中国語に決定
中国語・ロシア語→ロシア語に決定
ロシア語・ドイツ語→ロシア語に決定
ロシア語・フランス語→ロシア語に決定
ロシア語・中国語→ロシア語に決定

 進学校出身者は先輩や同級生からこうしたことを知らされているので、どうしても〇〇語でないと嫌だと考えている場合には、第1希望には記入して、第2希望には何も書かない。ところが、第2希望は書かなくてもよいのだが、進学校出身ではない新入生は、記入欄があると、ついつい書き込んでしまうらしいのだ。その結果、ロシア語を記入した者を、全員、ロシア語選択者に仕立て上げるのである。
 早稲田は日本で最初に「ロシア文学科」を設(もう)けた大学で、今でも、他大学にロシア語学科はあっても、ロシア文学科はほかにない。それを維持したいのである。
 維持しようと思えば、ロシア文学科出身者の就職先を確保しなければならない。一定レベル以上にロシア語ができれば、それなりの就職先は確保できる(商社・新聞社・通信社など)。同時に、ロシア文学科の大学院出身者の勤め先も確保したい。大学教員として採用されるにしても、非常勤講師としての実績は必要だ。その実績を積ませるためにも、なるべく多くの学生にロシア語を選択してもらいたい。しかし、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)対アメリカ合衆国の冷戦では、ソ連が惨敗しているし、現在のロシアにしても、資源大国として、天然ガスの供給などで、いろいろと他国に嫌がらせをしているから、喜んでロシア語を選択する者は、今も昔も、それほどいない。
 そんなわけで、第2外国語の登録で第2希望にロシア語を書いた新入生はもれなくロシア語選択者にするのである。
 そうした事情を知らない者は、ドストエフスキーの『罪と罰』に感動したとか、トルストイの『戦争と平和」に感動したとか、そうした新入生が、つい、うっかりと第2希望としてロシア語を記入する。進学校ではない高校の出身者に多いようだ。高校の先輩からの情報があるとないとでは、4年間の大学生活に差が出るという一例である。
 そして、ロシア語を学ぶことになるのであるが、いざ、学び始めて、ロシア語の習得は相当に手ごわいと気づく。しかし、手遅れである。
 早稲田大学第一文学部(当時の名称、今はただの「文学部」)は、学科ごとの募集は行なわず、文学部として一括(いっかつ)して入学試験を行ない、当人の志望と1年次の成績によって、進級先の専修が決まる。ずっと以前は専修ごとに募集していたが、そうすると、どうしても早稲田に入りたい受験生が不人気専修に願書を提出して、合格後、もともと興味がない分野なので勉強しないまま中退するというケースが多かった。
 専修への進級の際に、ものをいうのは語学の成績である。
 ところが、ロシア語は英語などとはまったく別物の言語である。英語を勉強してあれば、ドイツ語やフランス語では、似たような綴(つづり)りの単語が多数ある。そういうのがあまりないのがロシア語である。さらには、繋辞(けいじ、copulaともいう)がない。たとえば、英語でHe is a boy.(彼は少年です)に相当するロシア語では、isに相当するものがない。英語でいうと、He a boy.みたいな構文らしい。これって、倒置構文かどうかがわからなくなる場合があると思うんだけど、ロシア人は困っていないらしい。日本語にもフランス語にも英語の進行形に相当するものはないけれど、別に困らないのと同じだろうな。
 ロシア語選択者の中には、ロシア語の難しさに困惑(こんわく)して、1年次の単位取得がうまくゆかず、第1志望の専修(心理学・社会学・英文学・考古学などが人気専修だった)に進級できず、不人気専修の哲学・東洋哲学・ロシア文学などに進級せざるを得ない学生がいた。ロシア語選択者で、希望専修に進級できなった者が哲学専修に進級すると、たいへんな目に遭う。哲学専修では、ドイツ文学専修よりも多くのドイツ語の文献を授業で読むのだ。第2外国語が苦手で、希望専修に進めなかったとしても、哲学科に来ると、授業で英語はもちろん、ドイツ語・フランス語での講読もある。ロシア語での講読はない。ロシア語選択者で、希望専修に進級できずに哲学専修に進んだ学生は、いつのまに、大学に来なくなっていたな。
 哲学や東洋哲学は抽象的過ぎるし、史学科は史料の読み込みが煩(わずら)わしいという理由で、ロシア文学専修(今は「ロシア語ロシア文学コース」という)に進級してしまい、成績不良で中途退学してしまうような場合もある。

 ロシア語選択者になってもへこたれずに、きちんと勉強した例も知っている。以前、HAL496に講師として在籍した理工学部数理科学科(現在の数学科)の人物は、優秀な学業成績であったので推薦で大学院に進学した。理工学部全体がそうなのか、数理科学科だけなのかは知らないが、すべての成績を数値化して順位を出すそうで、6番だったそうだ。本人の能力と努力、ならびにロシア語の負担を考慮に入れると、かりにドイツ語選択になっていたら、1番になっていてもおかしくないと個人的には思っている。うちの生徒にも同じことを考えた者がいる。ちなみに、その人物は、好きな数学者はドイツ人が多く、つぎにロシア人が多いという理由で、なんとなく、第1希望:ドイツ語・第2希望:ロシア語としたそうだ。

 もちろん、ロシア語やロシアの文化・文学に強い興味があり、気合が入っているのであれば、早稲田のロシア語・ロシア文学コースはいいところだと思うよ。

追記:早稲田以上の大学で、フランス語を選択した場合、こんなことになるというは、つぎの記事に書いてある。

追記:すべての学部でそうなのかは知らないが、文学部では、第2外国語に関して、第3希望まで書かせるようになっている。どうしてもロシア語選択者を増やしたいらしい。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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