2009年3月5日木曜日

『星の王子さま』の新訳で、対訳プリントを作成していたら……

 『星の王子さま』Le Petit Princeの新訳が2005年6月以降につぎからつぎへと出版された。2005年1月に翻訳出版権が消失したからである。
 そのときに、フランス語と英訳と邦訳とを並べた対訳プリントを作成しようとした。
 英訳の定番といえるのはキャサリン=ウッズKatharine Woodsによるもので、これを読んで育った英語圏の人は多いのだが、女性によく見られる訳し方、つまり、フランス語の構文や言い回しは気にしないで、「こういうのは英語でなら(あるいは「私なら」)、こんなふうに言うのが普通よね」という訳が多く、翻訳としては結構なことだが、学習用プリントには適さないので、講談社インターナショナルから株式会社のKodansha English Libraryから出版されているRichard Howardによる英訳を採用した。
 つぎに日本語の訳だが、小島俊明(東京家政大学名誉教授)や三野博司(奈良女子大学教授・京都大学卒業)の訳文が、個人的に好きなんだけど、学習用の訳文としては、ある作家による少しごつごつした感じの直訳に近いものを選んだ。
 レオン=ウォルトLéon Werthという人物に向けての献辞のところが、つぎのようになっていた。邦訳の前に、フランス語を載せよう。

Elle a bien besoin d'être consolée.

 レオン=ウェルトは男性なのに、主語が英語のshe/itに相当するelleになっているのは、原文では、cette grande personne(その大人)を受けいるからだ。personneは女性名詞なので、elleで受ける。大人の男性を指すときでも女性名詞を使うというのは、奇妙な感じがするかもしれないが、そういう言語なんだとしか言いようがないな。
 英語に訳すとどうなるかと、自動翻訳機にかけてみた。

Google翻訳
She really needs to be consoled

Excite翻訳
She/It needs a lot to be conforted.

 ちなみに、本格派の怒涛の直訳をすると、こうなる。直訳だとSheとなるところだが、さすがにこれはHeにした(「本格派の怒涛の直訳」じゃないじゃん)。

He really has the need to be consoled.
彼は慰められる必要性を大いに持っている。
→彼は慰めを大いに必要としている。

 ところが、くだんのある作家の邦訳では、つぎのようになっていた。

慰めを必要としているから。

 「から」をつけたのは、この人の文体だとして、bienに対応する語句がない。この人の翻訳は、そういう方針なのかと思ったが、ほかの部分は、すでに述べたように、ごつごつした感じの直訳っぽい訳文なのだ。それなのに、どうして、ここだけが、大胆な意訳となっているのであろうか? 英訳では、ほかの部分はだいたい、フランス語の原文に対応するように訳してあって、この箇所の英文だけが、bienに対応する部分がない。偶然の一致なんだろう。

 つぎに、既存の英訳を2種、掲(かか)げる。

Kathrine Woodsの英訳
He needs cheering up.
直訳:彼は励ますことを必要としている。
彼は励ます必要がある。

Richard Howardの英訳
He needs to be comforted.
直訳:彼は慰められることを必要としている。
彼は慰める必要がある。

 いずれも、bienに相当する語句がない。英語でbienに相当する語句reallya lotをつけると、大袈裟(おおげさ)すぎて英語らしくないと感じたのではないかと思われる。

 また、ほかの邦訳を原文とともに並べてみる。

Ella bien besoin d'être consolée.

小島俊明(東京家政大学名誉教授)の訳
慰めてあげなければならない人なのです。

 「あげる」を使って、さらりとbienの意味合いを残している。

三野博司(奈良女子大学教授・京都大学卒業)の訳
彼にはどうしても慰めが必要なんだ。

 「どうしても」という語句とともに、「……なんだ」という言い方で、bienの「感じ」を強く出している。

 アントワーヌ=ド=サン‐テグジュペリAntoine de Saint-Exujupéryは、bienを入れることで、レオン=ウェルトへの心遣(こころづか)いを強く出しているのだから、多少、日本語らしくなくても、意味合いを残したほうがよいと思うのだけど。単なる個人的な感想なんだけどね。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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