2009年3月7日土曜日

大隈講堂の前で12時間連続呑み会をやったことがあるんだが……

 大学2年生のときに、大隈講堂の前で12時間連続呑(の)み会をやったことがある。前期試験が終わった7月のことだ。
 基本的には第一文学部哲学科哲学専修のメンバーで催したが、哲学専修の学生以外にも、他学部の知り合いが一部、参加していた。哲学科哲学専修の8割の学生は不参加を決め込んだ。

 「石の上で酒が呑めるか」
 「ちゃんとした呑み屋でやるなら参加してもいいが、大隈講堂前はいやだ」
 「ばかじゃないの!?」
 
 演習授業の教授2名にも声をかけたが、すげなく断られた。

 12時間連続呑み会は、夕方の6時に始まり、翌朝の6時に終了した。お酒とつまみは参加者それぞれが持ち寄ることになっていたが、安酒に駄菓子が多かった。
 参加者のひとりはおばあちゃんだった。この人は哲学専修の必修授業の聴講生だった。4月に呑み会を開く際に作成した案内のチラシを、同期進級の学生だけに渡すのもなんだしと思って、落第している学生など、教室にいる学生全員に配ったところ、聴講生のおばあちゃんも呑み会にやって来た。
 こんな馬鹿な企画に年輩の方は参加すまいと踏んでいたが、やって来た。体力や健康面で大丈夫なのかなと少しは心配したけど、学生よりもよりも元気に呑み明かしていた。

 12時間も、呑みながら、ただ、ぐだぐだと話していただけだった。哲学科の学生だから、哲学の話をしていたと想像する向きもあろうが、そんなことはあまりない。というのも、たとえば、ハイデガーの存在論が好きな学生と、カルナップの論理実証主義が好きな学生が、本気で議論をし始めると、まじの大喧嘩になってしまうことがある。ハイデガーを研究している学生とアドルノを研究している学生が、ハイデガーのナチス協力に関して、喧嘩になりそうになったのを、間に入ってなだめたことがあるくらいだ。哲学科の学生は、研究分野が違うと、意外と、哲学の中核に関わる話はしないものなのだ。
 哲学に関する話をするとしても、つぎのようなものくらいだ。

例その1
「フッサールHusserlって、おじさんからもらったナイフを、もっと切れ味の鋭いものにしようとして、研ぎ続けたら、鋼(はがね)の部分がまったくなくなり、切れないナイフにしちゃったらしいぜ。フッサールらしいよね」

例その2
「ウィトゲンシュタインWittgensteinが頭上のカシオペア座を指差(ゆびさ)して、あのWというかたちは、ウィトゲンシュタインのことだと言い出したので、弟子のノーマン=マルコムNorman Macolmが、『あれはマルコムのMですよ』と言ったところ、ウィトゲンシュタインはいかめしい顔つきで、『いや、君はまちがっている』と本気で反論したそうだ」

 以上のような当たりさわりのない話くらいしかしない。

 12時間連続呑み会の途中、深夜を過ぎたころ、劇団木霊(こだま)の劇団員が近くを通ったので、一緒に呑みませんかと誘ったところ、数名が合流した。
 劇団木霊というのは、早稲田の演劇サークルで、大隈講堂の裏に専用のアトリエを持っている。


 一般名詞の「こだま」は「木霊」「谺」「木魂」などと書く。
 もともとは、木霊の「木」を偏(へん)に、「霊」を旁(つくり)にして、ひとつの漢字にしていたが、ウェブでは、「霊」の正字体(いわゆる旧字体)の「靈」を旁(つくり)にした「欞」しかない。サイト上では「木霊」と「欞」とを本来の造字の代わりにしている。それでも、もともとの造字に愛着があるようで、「木」と「霊」をひとつにしたロゴも使用している。
 12時間連続呑み会のときに劇団員のひとりにこんなことを話した。「欞」という漢字を知らなかったので、『大字典』という辞書で調べたところ、「欞」は「櫺」と同じ意味で、「れんじ(連子・櫺子)」のことだ書いてあった、と。その劇団員はちょっと困ったという顔をしたので、悪いことを言ってしまったかなと思ったな。
 ちなみに「れんじ」とは、木・竹などの細いものを縦または横に一定の間隔をおいて、窓や欄間(らんま)に取り付けたもののことだ。

 劇団の人の肉体って、すごいよ。下手な体育会より鍛(きた)え上げている。演劇をやっている人からすれば当たり前のことなんだが、通常の10分の1をはるかに下回る速度で動けるんだな。この呑み会のときには、頼んでやってみせてもらったけど、演劇の素人からすれば、「これはすごい」って感じだった。試しに、みんなでスローモーションで歩こうとしてみたけど、全然、駄目だった。
 夜中の2時に大隈講堂の前で10人くらいの学生(それも哲学科)が、スローモーションで歩こうとしている光景は、不気味だったんだろうな。だれかが見ていればの話だけど。


時計台の下の部分に、演説をする場所があり、その前の半円状に凹(へこ)んでいるところは、階段状になっている。そこで呑み会をやっていた。階段状になっているから、坐(すわ)りやすいよ。

 『大学図鑑』というさまざまな大学の実情・内情を紹介する書籍がある。そこに、「隈(くま)飲み」という項目がある。

隈飲み
 大隈講堂の前ではいつも早大生たちがダベっているが、その大隈講堂の前で酒盛りをすることを、「隈(くま)飲み」という。大学を眺めながら酒盛りをして、校歌を合唱するわけだが、あまり夜遅いと警備員がやってくる。なお、飲み会の掛け声は「学生注目!」。この掛け声を聞いたら、「なんだー!?」と返事をしなければならないとか。ちなみに慶応では「塾生注目!」が掛け声。

 私が学生だったときに「隈飲み」なんてことばはなかったと思うんだが。それに、哲学科の学生は、校歌は唄わない。なぜなら、校歌を憶えるほどの愛校心がなく、憶えていないものは唄えないからだ。

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和歌山県, Japan
早稲田大学第一文学部哲学科哲学専修卒業、「優」が8割以上で、全体の3分の2以上がA+という驚異的な成績でした。大叔父は競争率180倍の陸軍飛行学校第1期生で、主席合格・主席卒業にして、陸軍大臣賞を受賞している。いわゆる銀時計組であり、「キ61(三式戦闘機飛燕)の神様」と呼ばれた男である。苗字と家紋は紀州の殿様から授かったものである。

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