というと、まじめなサークルのようで、実際、すこしはまじめなサークルであったが、私を含めて2人しかいないサークルだった。それ以前に、サークルと呼んでよいのかさえ、不確かなものであったし、卒業したら、新入部員がおらず、そのまま消滅した早稲田大学非公認サークルであった。
大学2年生の3月に、1・2年次の語学のクラスも、哲学専修でも同じという奴と、でっちあげたサークルだった。
「なあ、大学に入ってから、本を読むか、勉強するか、そんなことしかしてないよな。かといって、今さら、お遊びサークルにも入るわけにもいかないし、いや、まじめなサークルも入りづらい」
ということで、「入りづらいのならば、自分たちで作ってしまえ」ということになった。
当初、論理学の勉強会をふたりで開く予定であったから(文学部は「勉強会」を、理工学部は「自主ゼミ」を早稲田では使う傾向が今でもある)、「論理学研究会」か、「現代論理学研究会」あたりにしようと考えたが、サークル一覧を検討した結果、なんと、「数学研究会」がないという事実に遭遇し、ならば「数学研究会」にしようと考えた(ちなみに東京大学には「算数研究会」はある)。
新入生のためのサークル紹介号を発行する「マイルストーン」という同人誌のサークル(ミニコミ=サークル)があった。そこの登録用紙に所定の事項を記入したものを提出すると、「サークル紹介号」に掲載されるのだった。
検索にかけてみたら、「マイルストーン」は今でもあった。
登録に際して、歴史のあるサークルの正式名称は正字体(いわゆる旧字体)が多いということに気がついたので、正字体の名称を正式なものとして採用することにした。
早稻田大學數學研究會
どうです、正字体で書くと、昔からありそうな感じがするでしょう? ほんとは、「研」の字も、正字体があるのだけれど、うちのパソコンでは見つからなかった。
紹介文では、論理主義に基づく数学基礎論の復興・再構築を目指すサークルですなどと書いておいた。
数学基礎論というのは、もともとは数学を基礎づけるものだったんだが(今はちょっとちがう)、基礎づけるやり方に論理主義・直観主義・形式主義の3つがあった。しかし、当時、論理主義はすでに破綻(はたん)しており、直観主義の立場をとる数学者も世界で数人、大半は形式主義の立場であった。
そんなときに、論理主義に基づいて数学基礎論の復興・再構築を目指すってだから、理工学部数学科の連中が読めば、大爆笑することまちがいないという紹介文だった。もちろん、わざとそうしたんだが。
で、サークルのメンバー募集の成果はというと、問い合わせ0件、新入部員0人だった。
ぼくたちは、文学部の空き教室で、ふたりきりで、命題論理学を完全性の証明くらいまで勉強し、クルト=ゲーデルKurt Gödelの不完全性定理Gödelsche Unvollständigkeitssatz(←このドイツ語は「ゲーデルの不完全性定理」って意味なので、くどい表現になっている)は、おおまかなところだけ勉強した。現代論理学関係が大半だった。
4年生になって、思いもかけないことがあった。
企業からの就職勧誘のダイレクト=メールがどんどん届くのである。当時は、ウェブがなかったので、ダイレクトメールで学生を集めようとする企業が多数あったのだ。
5通だったら、今日はやけに少ないと感じ、10通でもなんとも思わず、30通を超えると、おや、今日はちょっと多いなと思うようになった。毎日毎日、そんなに届くと、捨てるのもたいへんだった。
早稲田って、えらい人気者だなあと思っていたが、第一文学部のほかの学生のところには、それほどまでには就職勧誘のダイレクトメールは届いていなかった。
「マイルストーン」のサークル紹介号に掲載した情報が大学の外部に流れていたのだ。名簿屋を通じて、売られていたらしい。
早稲田ごときで、こういうことを述べるのもなんだけど、超1流企業でなければ、早稲田のサークルで会長なり、幹事長なりを務める人材は、喉(のど)から手が出るほどほしいと思っているところは意外と多いらしい。普通レベルの早稲田の学生を束(たば)ねることができる人材だと考えるらしい。
ということで、就職活動の裏技。
早稲田大学に入って、適当なサークルをでっち上げて、マイルストーンに登録して、会長になっておけば、ちょっとは有利になるかも。就職活動というものをしたことがないので、どのくらい有利になるのかはわからないが。
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